【インタビュー】不審死を遂げた父親、世界中の内戦地帯、母の余命…「目を背けたくなる現実」を撮り続けた写真家・後藤勝『悔恨への執念』

【インタビュー】不審死を遂げた父親、世界中の内戦地帯、母の余命…「目を背けたくなる現実」を撮り続けた写真家・後藤勝『悔恨への執念』

◾︎南米からアジア……最前線を撮り歩く日々

ーーエルサルバドルはどうでした?

後藤 行ったはいいもののツテもなく、写真を撮ることは難しかったです。

ーーどう対処したんですか?

後藤 検問がなくなっている所から知らずに入ったらゲリラとばったり出会って、片言のスペイン語で「セニョール、ヤポーネ、ヤポーネ、フォトス、フォトス」って言ったら、基地に連れて行かれたんですよ。そこでは「ゲリラの日常」みたいな写真を多少は撮らせてもらえたんだけれど、ある日、顔見知りの少年兵に「このままここにいたら俺はお前を殺さなきゃならないことになる。でも、殺したくないから出て行ってくれないか?」と言われました。彼らからすればスペイン語もまともに話せない不審者ですからね。それで、基地を出て行くことになって。

ーーそこからどんな展開に?

後藤 首都のサンサルバドルに移動して、泊まっていたゲストハウスのオーナーに「戦場を撮りたい」と話したら、「まずはスペイン語を勉強しろ」と。それと「コロンビアで右派民兵組織が左翼ゲリラを掃討する作戦が始まった。すごくバイオレントだ」と聞いて。それで、安いスペイン語学校があるエクアドルに移って2か月間みっちり勉強したら結構話せるようになったのでコロンビアへ。中部のバランカベルメッハという町で、現地の人権擁護団体の所長のインタビューの載った新聞を見て、所長に会いに行きました。「一緒に活動しながら写真を撮りたい」と所長に伝えたら「ここはすごく危険で職員もカメラマンも殺されている。それでもここにいるか?」と尋ねられたので「ここまで来たからには撮りたい」と。翌日から同行して撮影できることになりました。どこまでひどい場所かその時点ではわからなかった。

ーー具体的に、どんな仕事をしていたのですか?

後藤 ドキュメントチームの一員として、ゲリラと疑われて民兵に殺された市民の遺体を撮っていました。バランカベルメッハはゲリラのシンパが多い一方で、警察と民兵が癒着していたから、遺体が見つかると証拠隠滅のためにすぐさま警察が回収してしまう。家族が捜しに来た時には現場に遺体はない。「夫が2か月前に誘拐されてから見つからない」というような、人権擁護団体のオフィスにやってきた家族が後から身元を確認できるように遺体や遺品を撮る。それが、最初にやった写真で人に何かを伝える仕事です。

ーーお給料は?

後藤 住む場所と食事は用意されていたけれど、給料はまともに出ませんでした。それで、ニューヨークに行ってレストランで数か月働き、貯まった資金を持ってはまたコロンビアに帰って写真を撮る生活を繰り返しました。そうこうするうちに職員の半数が行方不明になって、新たに入ってくる人もいなくなった。1994年にコロンビア人の所長が銃撃を受け、しかし未遂に終わりました。そして彼はグアテマラに亡命することになり、「ここにいたらお前も殺されるからもう戻ってくるな」と言われて、仕方なくニューヨークに戻りました。

ーーニューヨークではどんな生活を?

後藤 2年間はカメラも写真も仕舞ってアルバイトをしたり。気づかないうちにトラウマになっていたんです。コロンビアで見たことが頭から離れない。ニューヨークにいるのに、寝ている時にはつねに寝室に民兵が入ってくるような気がしたし、街を歩いていても後ろから狙われている感覚に囚われていました。誰が敵で味方なのかわからない、そういう戦争だったんです。仲の良かった友人も殺された。それで、専門家のカウンセリングを受けたら「その仕事からしばらく離れなさい」と言われてしまって。

ーーでも、また戦場に戻ったんですよね。

後藤 1996年にカンボジアで政府軍とポルポト派が酷い内戦を始めたことをニュースで知って「コロンビアには戻れない。でも、写真を仕事にするにしてもそれはニューヨークじゃない」とずっと思っていたから、思い切ってプノンペンに行ったのがその年の終わりです。結局、コロンビアでのことを忘れられなかった。

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