◾︎「忘れたいと思っていた写真たち」が感情を揺さぶる
ーー「悔恨への執着」は後藤さんの半生と家族の歴史を作品化したものだと思うのですが、要所要所で「写真」がキーになっている点が興味深いです。お母さんのフラダンスの写真、死後に発見された家族のアルバム。失踪中のお父さんが密かに持ち歩いていた後藤さんの写った写真など、一度バラバラになった家族が写真によってつながった。「悔恨への執着」は「写真が紡いだ家族の和解と再生の物語」なのかもしれない、と思いました。
後藤 結果的にですけれどね。母と兄は一緒に暮らしていたけれど、父は僕が子供の時に家を出てからずっと消息知れずでした。僕は17歳で家を出てから30年間帰らなかった。父は何も持たずに家を出て行ったらしいんです。僕も着の身着のままで家を出た。元をたどれば、僕が生まれてからの記憶を写真によって発見したわけですよね。母が隠していた家族アルバムも、父の遺品のなかにあった写真も、友人知人に預けていたコロンビアやカンボジア時代の写真も、古いものは50年かかって僕の所に集まってきた。散逸してもおかしくなかったのに、奇跡的に戻って来ました。
ーーパズルのピースがはまった感じですね。
後藤 母の写真を現像するかしないか悩んだ時期もあったんです。1年くらい放置していた撮影後のフィルムを現像したことも「母親の死に目を撮る写真家ってどうなんだ?」という葛藤の末の偶然ですし、現像したものの、ネガのまま埋もれさせることも考えていましたからね。母への敬意というんでしょうか、「撮るのはいいとしても発表するのは……」って。
ーーその気持ちはわかる気がします。
後藤 これまで僕が自分のなかで蓋をしていた過去。恥じてはいないけれど、背を向けてきた、忘れたいと思っていた写真。家に帰らなかった理由には、家族と自分の問題に対峙したくなかったということがありました。先に「役に立つ写真」と「役に立たない写真」の話がありましたが、僕が「悔恨からの執着」の写真を「役に立たない写真」と言ったのはそういうニュアンスだったのかもしれない。
ーー撮り手自身が自分の写真の意味や強さ、スケールの大きさに気づいていないことは意外とありますよね。そして、それが見る者の心をどれだけ揺さぶるかも。
(文:渡邊浩行/モジラフ)
※最終ページに、紛争地での刺激的な写真を掲載しております。
◾︎作家プロフィール
後藤勝(ごとう・まさる)
写真家。写真総合施設、Reminders Photography Stronghold所長。Yahoo!ニュース特集写真監修。1989年に渡米。中南米を放浪しながら独学で写真を学び、1991年から南米コロンビアの人権擁護団体と共に活動、以後ニューヨークを拠点とする。1997年からカンボジアに移り、内戦終結まで記録、その後もバンコクを拠点にしてエイズや児童売買などの社会問題を追う。日本での人権問題をテーマにプロジェクトも続け、2012年から東京を拠点、同年Reminders Photography Strongholdを設立する。さがみはら写真賞(2005年)、 上野彦馬賞(2004年)、World Health Organization/Asia Prize(2004年)、International Fund for Documentary Photography(IFDP)(2002年)等受賞。
◾︎Masaru Goto
https://www.masarugoto.com/
◾︎Reminders Photography Stronghold
http://reminders-project.org/