ぬらりひょんは実在する!? 秋田県で「ガチ百鬼夜行」の目撃例… ドラマ「妖怪シェアハウス」を民俗学者が深堀り!

 漢字では「滑瓢」とも書くぬらりひょんの発祥地は、岡山県や秋田県だという説がある。

 岡山の備讃灘(びさんなだ)では、人間の頭ほど丸い玉が波の上に浮かんでいたので引き上げようとしたところ、「ぬらり」とすり抜け、「ひょん」と浮くことを繰り返したため、こんな名前が付けられたという。ただその実体は、クラゲやタコを妖怪と見たとも推測される。

 江戸時代の著名紀行作家・菅江真澄(すがえ・ますみ)の旅日記に、「さへの神坂を、小雨の降る夕方に通ると、男の場合は美女とすれ違い、女の場合は色男とすれ違うことがある。またぬらりひょん、おとろし、野槌(のづち)の百鬼夜行が見られるときもある。人はそこを化け物坂という」(現代語訳)という記述がある。

 この恐ろしい坂道は現在の秋田県湯沢市稲庭町沢口にあり、ぬらりひょんのほかに、おとろしや野槌などの物の怪が行進したというのだ。「おとろし」は長い髪におおわれた正体不明の妖怪、「野槌」は胴が太い蛇のようだが口だけで目鼻がなく、野の精霊、野つ霊(ち)だともいわれている。200年近く前の話だが、実際に百鬼夜行(ひゃっきやぎょう)があったなら、ぜひ見てみたかったものである。

佐脇嵩之『百怪図巻』。画像は「Wikipedia」より引用


 ぬらりひょんが“妖怪の総大将”だという設定は、水木しげるが『ゲゲゲの鬼太郎』での役柄から広まったらしい。原作でもアニメでも鬼太郎の敵役として対立し、権謀術数を用いて人間と争う。ドラマでも“今怪”もこれから先も、ぬらりひょんの暗躍には目を離せないことだろう。

文=畑中章宏

1962年、大阪生まれ。民俗学者・作家。
著書に『災害と妖怪』(亜紀書房)『天災と日本人』(ちくま新書)『21世紀の民俗学』(KADOKAWA)『死者の民主主義』(トランスビュー)など。民俗学をベースに災害や妖怪、民主主義など現代の問題を論じる気鋭の民俗学者。最新刊『関西弁で読む遠野物語』が発売中。

ツイッター:@akirevolution

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