番長皿屋敷・お菊さんは各地に出没する!? 怨み深いお菊か、アイドル系か…ドラマ「妖怪シェアハウス」登場妖怪を民俗学者が解説!
——話題のドラマ「妖怪シェアハウス」を気鋭の民俗学者・畑中章宏が解説!
今から20年近く前、東京・千代田区の三番町(さんばんちょう)にある会社に勤めていたことがある。近くには四番町や五番町という地名もあったが、うかつにもこのあたりがお菊さんが現れる「番長皿屋敷(ばんちょう・さらやしき)」の番町だとしばらくの間気づかなかった。
ある日、JRの市ケ谷駅近くを歩いていると、「帯坂」と書いた標柱が目に留まり、そこには「お菊が髪をふり乱し帯を引きずって逃げた坂道」だというふうに書いてあった。それでやっと「番町」と「皿屋敷」が結びついたのだ。
しかし、このお菊さんの“本籍”は、江戸東京ではなく兵庫県姫路市で、演目名も「番町皿屋敷」ではなく「播州(ばんしゅう)皿屋敷」だった。
姫路城の城下を舞台にした「播州皿屋敷」は1741年(寛保1)初演の浄瑠璃で、その後河竹黙阿弥作の歌舞伎、岡本綺堂の小説『番町皿屋敷』などに脚色されて、さらには講談・映画などを通して多くの人に知られるようになっていった。
そんな皿屋敷のお菊さんと言えば、誰しもが、主の家の家宝の皿を割ったため、井戸に投げ込まれて亡霊になり、夜な夜な皿の数を数えるシーンを思い浮かべる。
じつはお菊さんに似た伝承は古くからあり、各地の民俗社会に伝えられてきた。
たとえば高知県四万十市では、「お滝」という下女が秘蔵の皿10枚のうち1枚をなくして滝に身を投げ、怨霊となって9枚目を数えるときに泣き出すのだが、主人が10枚と答えると泣き止んだという。また長崎県五島市では、皿を割って湯殿で打首になった女が怨霊として湯殿に出没したらしい。
「播州皿屋敷」は、怪談だけではなく上方落語の演目としても、今の季節、よく演じられる。この噺で美人のお菊さんは人気者になり、「会いに行けるアイドル」ならぬ「会いに行ける幽霊」という設定だ。
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