あの「the原爆オナニーズ」がまさかの映画化! 名古屋の誰もがダイブする? 伝説のパンクを追った『JUST ANOTHER』大石規湖監督インタビュー前編

■バンドを続けること=完成しきらないこと

−−『MOTHER FUCKER』では谷ぐち家で日々なんらかのトラブルが発生する感じでしたが、この『JUST ANOTHER』では……。

大石 特に何も起こらないんですよ。それを1年間撮り続けるという(笑)。

−−もちろん本作のハイライトである“今池まつり”をはじめ、eastern youthとKen Yokoyamaを迎えた名古屋CLUB QUATTROのオープン30周年記念イベント、消毒GIG(ハードコアバンド・GAUZEの自主企画)といったライブはあれど、それらも日常の一部であって。

©2020 SPACE SHOWER FILMS

大石 そうなんですよね。

−−でも、そのドラマチックなことが何も起こらないところにリアリティがあるわけで。

大石 そう。だからタイトルの『JUST ANOTHER』も、the原爆オナニーズの1stシングルのタイトルでありつつ「ありふれた」とか「なんでもない」みたいな意味があるんですけど、そういうなんでもない日々が蓄積されていくのが現実で。その中で、当人たちにしかわからない細かな変化とかがあるのかなって思いましたね。

−−ただ、ドラマチックなことがないなりに、ドラマはあるというか。特に映画の後半、2001年12月にthe原爆オナニーズに加入したギターのSHINOBUさんにスポットが当り始めてから、ドライブがかかりますよね。

大石 結局、私の中ではSHINOBUさんの心の動きが一つの軸になったというか。SHINOBUさんも20年近くthe原爆オナニーズのメンバーをやっているわけですけど、the原爆オナニーズは1982年にボーカルのTAYLOWさんとベースのEDDIEさんを中心に結成されて、1986年にドラムのJOHNNYさんが加入しているので、その中では圧倒的に若いし、SHINOBUさん自身もファンとして客観的にthe原爆オナニーズを見てきているんですよね。そんなSHINOBUさんの視点を借りることによって、バンド像が見えてくるんじゃないかって。

SHINOBU ©2020 SPACE SHOWER FILMS

−−SHINOBUさんは裏主人公という感じでした。

大石 そうそう。バンドの練習ではSHINOBUさんだけTAYLOWさんに厳しくダメ出しされて、側から見ていると苦行のようなんですよ。実際、SHINOBUさん自身も悩み続けているんですけど、それも今のthe原爆オナニーズの状態を表しているというか。要はthe原爆オナニーズもいろんなことに悩み続けていて、決して完成されたバンドではないんですね。むしろ、バンドを長く続けるということは、いつまで経っても完成しきらないことなんだろうなと、撮っていて思いました。

©2020 SPACE SHOWER FILMS

−−一方で、練習でSHINOBUさんに厳しく当たるTAYLOWさんは「あいつは天才肌だから褒めちゃいけない」と、SHINOBUさんのいないところで言っているんですよね。

大石 そういう厳しさって、相手のことを理解したうえで、なおかつ育てたいという気持ちがないとなかなか発揮されないものじゃないですか。私はそのシーンで「バンドでしか成立し得ない関係」と言っているんですけど、編集作業の後半ぐらいから「実はこういう関係って、もっと普遍性があるんじゃないか?」と思うようになったんですよね。

−−例えば編集者とライターの間でもそういう関係は成立しそうだなと、映画を観ながらちょっと思いました。有り体に言えば「褒めて伸ばす」ではなく「叱って伸ばす」やり方ですよね。

大石 それって、ひょっとしたら今の時代にそぐわない、非効率なやり方なのかもしれないですよね。素直に褒めれば誰も悩まなくて済むかもしれない。でもSHINOBUさんもSHINOBUさんで、the原爆オナニーズのことを「変態の集まり」と言っていて、ある意味で達観しているというか、そういう特殊な関係性の中でちゃんと自分の視点を持っているんですよね。だからこそ、さっきも言ったようにその視点をお借りしたんです。

EDDIE ©2020 SPACE SHOWER FILMS

−−そのSHINOBUさんは、映画の中で一つの到達点を迎えますね。

大石 そう。その到達点に至る流れが読み取れたから、私もこの映画に話の筋が通ったなと思って。ただ、その到達点というのはあるライブで迎えたんですけど、後日、別のライブを撮りに行ったらTAYLOWさんが「今日のSHINOBUは全然ダメ! 最悪!」とめちゃくちゃ怒っていたんですよ。そこで私は「ああ、ここでリセットなのか」と(笑)。でも、そこからまた苦行を積み上げていく、その繰り返しでバンドが継続しているんだと思います。

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