もしも注射針が折れたらどうなる?一生苦痛が残る体内残留の超悲惨な医療事故…亜留間次郎が解説!

■昔の注射は痛かった

 大正時代から昭和40年代までは、一本の注射器を使いまわして100人に注射してしまうようなことが普通に行われていました。

 その代表例が軍隊や学校で行われていた集団予防接種で、旧日本軍には「予防接種は列の先頭に並んだほうが痛くない」という言い伝えがあったそうですが、後の方ほど注射針がボロボロになって痛くなっていったと考えれば、これは極めて合理的な説明がつく経験則です。

 アメリカ糖尿病学会が出版しているジャーナル『Diabetes』では、インスリンの自己注射において一回注射するたびに注射針がどれぐらい痛むのか研究した成果が発表されています。

複数回使用した注射針。画像の出典:Diabetes Journal 1998年10号 “Nadeln mehrfach verwendrn?”

 一回刺しただけでけっこう痛み、4回目でもうボロボロなので、使い捨てにするのがベストというごく当たり前の結論が出ました。

 注射針は一回使うと鈍ってしまうので、大学病院や大病院では一回ごとに研ぎなおしていたそうですが、町医者などは一日一回しか砥がなかったりして、大学病院や大病院の方が注射が痛くないという経験則があってもおかしくありません。

 それどころか、現在の医療保険制度が出来る前は病院ごとに値段が違うのも普通で、同じ注射でも値段の高い病院と安い病院があって、大きくて高い病院は注射が痛くないというのはエビデンスがあったっぽいかも?

 まあ、色々あって現在の注射は一回ごとに使い捨てになったわけですが、これは感染予防だけでなく、注射針が折れるリスクも注射の痛みも最小化しているので、「もったいない」とか言わないでください。

 前述の通り、大昔の注射針は研磨して消毒して再使用が普通に行われており、筆者の実家の病院にもメスや注射針を研ぐための「研磨室」という部屋がありました。筆者が小学生だった時代ですら、すでに研磨室というのは看板だけになっていて、実際には針やメスなどの刃物や医療廃棄物を保管しておく物置部屋に過ぎず、そこに居たという技師のおじさんには会った記憶がありません。母に尋ねてみたところ、昭和50年に病院の大幅な設備更新をしたときに全て使い捨てに代えて、研いでもらう物がなくなったので退職したそうです。

 注射針研いだ事あるという医師から話を聞けたのですが、この方は昭和55年卒だそうで、現代で注射針を研いだ経験のある医師は少なくとも60代より上ということに?

 注射針の能力を示す基準のひとつに「穿刺力」という物があり、研磨法、刃面角、針の外径などの要素によって決まります。穿刺力が高いほど針を刺す時の失敗が減り、患者の痛みが軽減するので重要です。

 熟練の職人に「そんな砥ぎ方じゃ患者が可哀想だ」と若者が怒られたり「この二段砥ぎが重要なんだ」とか指導されていたり、ベテランの医師が注射をした時に、この注射針は穿刺力が違う、すご腕の職人だって言ったりしたかどうか、筆者の年代では知るすべが無いので、伝え聞いた話を元にした妄想です。

 注射器が登場した初期の注射針の先端は、単純に斜めに切って砥いでいただけだったのですが、刺通抵抗を小さくして痛みを軽減するために、針先の角度を二段階にするランセットポイントやバックカットポイントなどの様々な形状の注射針が開発されました。現在の注射針はこのような加工が施されているのが普通で、最近はもっと高度なアシンメトリーエッジ加工が施された注射針もあります。

 技術の進歩ってすごいです。

 注射は絶対に昔より今の方が痛くありません。

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