8歳年下の男と「ダイナマイト心中」した母の写真を探して… 末井昭が語る「猫コンプレックス母コンプレックス」

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【連載】猫コンプレックス 母コンプレックス――異色の精神科医・春日武彦と伝説の編集者・末井昭が往復書簡で語る「母と猫」についての話
<これまでのまとめはこちら>

<第7回 末井昭→春日武彦>

■■■■■キー坊の恋、母の恋■■■■■

 春日さんと往復書簡をさせてもらうきっかけになった通い猫の〈キー坊〉が、2020年の年末から突然来なくなりました。毎日のように、しかも朝、昼、晩、夜と、日に4回も、時には5回も来ていて、そのたびにごはんもあげていたのに、どうしたのでしょうか。

 と考えるのは、こっちが一生懸命可愛がってあげていたのに、いったい何が不満なのかという思い上がりですね。実際には、そんなことを考えた訳ではありませんが、逆にこちらに何か落ち度があって〈キー坊〉の機嫌を損ねたではないかと気になるのです。

〈キー坊〉と初対面したのは、東京に1回目の緊急事態宣言が発令された頃でした。〈キー坊〉は、庭の踏石の上にちょっこり座ってこっちを見ていました。

〈キー坊〉の特徴は、じっと相手を見つめるということで、〈キー坊〉に見つめられていると、心を見透かされているような気持ちになるのです。実際、人の心を見抜く力は、特に野良の場合は、我々人間より数段上ではないかと思います。

〈キー坊〉が来ると、いつもごはんをあげる前にスマホで写真を撮っていました。〈キー坊〉は写真写りが良くて、その写真をツイートするとみんなが見てくれるので、いい気になって撮っていたのです。しかし、撮る場所が踏石の上に限られているので、見ている人が飽きるのではないかと思い、撮る角度を変えたり、外に出て逆方向から撮ったり、近寄って超アップで撮ったりしていました。

 ぼくがスマホを向けると、〈キー坊〉はカメラに向かって前足を揃えて座り、そこに長い尻尾を巻き付ける「三つ指尻尾巻きポーズ」を取ります。そのポーズを、ぼくが望んでいることを知っているのです。雨が降っている時でも、雨に濡れながらそのポーズを取ろうとします。そんな時、〈キー坊〉を虐待とまでは思いませんが、いじめているような気持ちになることもありました。

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キー坊の三つ指尻尾巻き曼荼羅

 お腹が空いているだろうから、早くごはんをあげたらいいのですけど、ごはんを食べたらさっさと行ってしまうので、ごはんをあげる前に写真を撮っていたのです。ごはん代として、そのくらいはいいだろうという嫌らしい気持ちもなかった訳ではありません。

 アップの時はズームを使うのですが、もっと鮮明に取ろうと15センチぐらいまで近付いたら、一瞬のうちに引っ掻かれたことがありました。指に長さ5センチぐらいの浅い傷が出来て、血が流れていました。「調子に乗るな!」と言われたようでした。申し訳ありませんでした、〈キー坊〉。

 ある晩のこと、庭を見ると、いつものように〈キー坊〉がこっちを見ていました。よく見るとその隣に小さいキジトラの猫がいます。〈キー坊〉が他の猫と連れ立って来たのは初めてのことです。

 いつものようにごはんを持って行くと、キジトラはすぐ逃げました。〈キー坊〉は、そのごはんを少し食べてどこかに行きました。そのすぐあと、先ほどのキジトラが戻って来て、残りのゴハンを全部食べました。

〈キー坊〉はキジトラのためにごはんを残したのです。野良でもそういうことをするのかと驚きました。野良は食べ物を奪い合うことしかしないという偏見があったからです。美子ちゃんが、「あの子はキー坊の彼女だよ」と言います。だとすると時々連れて来るはずなのに、一緒に来たのはその時だけでした。たまたまその猫と出会っただけかもしれません。〈キー坊〉は優しい猫なのです。

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キー坊が彼女を連れて来た


〈キー坊〉をなぜ飼わないのかというツイートがありました。そのことも、〈キー坊〉に対するコンプレックスになっていました。飼ってもいいとは思うのですが、飼うと我が家に昔からいる〈ねず美〉が嫌がるはずです。もう1匹いる〈タバサ〉は〈ねず美〉の子どもですが、〈ねず美〉は〈タバサ〉に対してもナーバスになることがあります。「キー坊を飼うとしたら、ねず美ちゃんがいなくなってからだね」と、美子ちゃんと話していました。それまでは、今のままの野良生活を続けていて欲しいと、虫がいいことを思っていたのでした。

 しかし、飼い猫になることが、猫にとって幸せなことなのかという問題があります。家の中に閉じ込められているより、草っ原を走り回ったりした方が楽しいに決まっています。彼女や彼氏と遭遇することもたくさんあります。

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