罪悪感は生きる手応え? 精神科医・春日武彦が自らの「罪悪感と人生の関係」を分析
罪悪感は生きる手応え? 精神科医・春日武彦が自らの「罪悪感と人生の関係」を分析して見えてきたもの
【連載】猫コンプレックス 母コンプレックス――異色の精神科医・春日武彦と伝説の編集者・末井昭が往復書簡で語る「母と猫」についての話
<これまでのまとめはこちら>
<第10回 春日武彦→末井昭>
■■■■■罪悪感、その他■■■■■
末井昭さま
わたしも、発情期に鳴くのが雌だけとは知りませんでした。雄も雌も、どちらもがお互いを求めて切なく鳴き交わすのだろう、と勝手に思い込んでいました。我が家の猫〈ねごと〉君は雌ですが、一年中おかしな鳴き声を上げます。妙に色っぽい鳴き声です。執拗ではないので、たぶん性欲に突き上げられて鳴いているわけではないのでしょう。それに不妊手術をしてありますから、色即是空といった心情になっていてもおかしくはない。でも春めいてきたここ一週間は、変にテンションが上がっています。猫用オモチャとして針金の骨組みにビニールを張った円筒形のチューブというかトンネル(直径25センチ、長さ1メートル弱)をリビングに転がしてあるのですが、いきなりスイッチが入ったように家の中を駆け回り、テーブルの上だのソファの背もたれにも一気に駆け上がっては駆け下り、十分に勢いがついたところでトンネルを全速力で走り抜けるのですね。「ズボッ」と音をさせてトンネルを俊足でくぐり抜けるのはまことに快感らしい。首都高を走り回る暴走族(ルーレット族って言うんでしたっけ)さながら、何度も何度もぐるぐる走り回っています。やはりホルモンの影響はあるのかもしれません。
それにしても、思いっきり野原を走り回り、腰が抜けるまでセックスに熱狂するのが、やはり猫にとっては究極的な喜びなのでしょうか。そのあたりで室内飼いの飼い主としてはちょっと心が痛むわけですが、猫と暮らしているとさまざまな制限を相手に強いるわけですから、当然のことながら微妙な罪悪感がいろいろと生じる。しかしそのプチ罪悪感こそが、猫を飼う楽しみのひとつでもあるのではないかと最近思うようになりました。なぜなら罪悪感に対する償いと称して、あれこれ一方的な思い入れに基づくご機嫌取り(これが楽しい!)を正当化している気配がありますから。

カロリーの高いものを食べたり、ついネットで余計なものを購入してしまったり、やらなければならないことを翌日に延ばしたり、他人の悪口を言ったり、何だか自分の人生はささやかな罪悪感を「生きる手応え」と読み換えることで成り立っているような気さえしてしまいます。何たる罪深い人生なのかと項垂れたくなりますし、これでは将来猫に生まれ変わる可能性はなくなってしまいそうです(清く正しく生きないと、猫には生まれ変われないらしい)。
と、ここまで書いて罪悪感につながるちょっとした記憶に思い当たりました。
楠勝平(くすのきしょうへい、1944~1974)という漫画家がいました。ご存知でしょうか。白土三平の弟子筋のようですが、時代物も現代物も佳作(どれも短篇)を主に雑誌『ガロ』へ発表していました。昭和40年代が活躍の時期です。彼の作品で、タイトルが分からないのですが現代物で、少年が万引きをするシーンが出てきました。万引きは一応成功します。金額的には大したものではなかった。そもそも少年は万引きとかそうした不良行為とは無縁の存在で、いわば思春期の鬱屈がたまたま万引きに結実してしまった。漫画は台詞が少なく、そんな少年の複雑な気持ちをサイレントに近い描き方で表現していました。
さて少年は万引きに対する罪悪感を持て余してしまいます。このままでは、いよいよ屈託が深まってしまう。そこで夜中に、万引きした品物に見合う金額の紙幣を蝋燭の炎でそっと燃やします。そうやって心のバランスを取ろうとしたのでした。もちろんそれはまったくの独りよがりで、意味がない。だが紙幣が燃えていく絵がわたし(当時、中学生か高校生)にはものすごく文学的に感じられたのですね。心の機微が、こんなふうに表現されるものなのかと驚いたのでした。
そしてしばらくしてから、ニキビ面のわたしは些細な罪悪感に引っ掛かりました(いや、しょっちゅう引っ掛かっていました。マスターベーションだって罪悪感につながっていた位ですから)。悩むほどの内容ではなかった筈ですが、ここで悩まなかったら自分には悩むような材料がない。だから大げさに悩んでみました。そうしてオチをつけるべく楠勝平の漫画を思い起こし、真似をして、台所の流しで紙幣(たぶん当時で最少額の百円札)に燐寸で火を点けて燃やしてみたのでした。昼間だったのでちっぽけな炎は日の光に溶け込んでよく見えません。お札の、燃えている部分の縁だけが黒くなって次第に全体を浸蝕していくのが分かりました。
いくらなんでも紙幣を燃やすなんて罰当たりですし、決してお金が有り余っていたわけでもない。むしろ燃やすことのほうに罪悪感を覚えるべきだ。が、自分なりの文学的体験を実行するためにはどうしても紙幣を燃やさなければならないと思ったのです。まさに思春期をこじらせた果ての暴挙です。お札が灰になっても、心はもやもやしたままでした。
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