あったのは食欲と性欲だけ…? 壊れた母性本能とグレることすらできなかった少年! 末井昭の性格が捻じれた少年期~青年期とは?

 人間の母親には、子どもを可愛がる者もいれば、子どもをいじめる者もいれば、殺してしまう者もいます。もし母性本能があれば、そういうことはあり得ません。だから子育ては本能ではないのだと、文化なんだと、個人的趣味、あるいは社会行動なんだと、岸田さんは言います。つまり、子どもが生まれたら可愛がるものだという共同幻想で、人間の母親たちは子育てをしているということです。

 子どもを放置したり虐待したり、父親の子どもへの暴力や性的虐待を見て見ないふりをしたり、食事を与えなかったり、そういう事件を母親が起こし、それがニュース番組に出たりするのを見ると、確かに人間の母性本能は壊れていると思います。近年になって、子どもが犠牲になるこれらの事件が増えてきたのは、壊れた母性本能を補う共同幻想も崩れ去ったからではないでしょうか。

少し大きくなった子猫。名前が〈ボン〉と〈タビ〉に決まった(写真:神藏美子)


 前々回に、ぼくは母親をどこか客観視していて、母親に対して怒るとか恨むという気持ちが湧いてこなかった、その理由として、結核のため母親との密接な関係がなかったから、母親に見捨てられたという怒りの感情が湧かなかったと書きました。

 密接な関係が築けなかったのは、結核菌が感染するから子どもが近寄るのを母親が拒んだからですが、母親の本心はどうだったのかということが気になります。子どもを可愛がりたいという気持ちがあったのかどうか。岸田理論では、母親は子どもを可愛がるものだという共同幻想で子育てをします。しかし、結核病棟という社会から隔離された場所で20代を過ごすと、その共同幻想からも隔離されてしまうのではないでしょうか。とすれば、子どもを可愛がりたいという気持ちにもならなかった可能性があります。とすると、母親にあったのは食欲と性欲、ただの欲望だけだったのか。そうは思いたくないのですが。

 もちろんそれは、岸田秀さんの『ものぐさ精神分析』や『母親幻想』を読んでから考えたことですが、そういうふうに亡くなった母親を客観視することは、子どもの頃から身に付いていたように思います。そうすることで、母親に対する恨みの混じった感情や、母親が死んだことの悲しみを断ち切ろうとしていたのかもしれません。

 母親は、肺結核で余命いくばくもなかっただろうし、零次さんとの恋は誰にも認められなかっただろうし、死んでしまったのは「仕方がないことだった」と、納得しようとしていたように思います。「仕方がない」と思うことは「諦める」ということです。諦めることで母親の死を受け入れ、母親は抽象化されて行き、母親のようなものに甘えたい、母親のようなものから可愛がられたい、という漠然とした気持ちが強くなったのではないかと思うのです。漠然としたマザーコンプレックスとでも言えばいいのでしょうか。

 本来なら、グレたり偏った人格になるところなのに、「よくまあ、まっとうな生活に着地したものだ」と、前回春日さんに褒められ(?)ましたが、自分でもそう思うことはあります。

 グレるのはだいたい反抗期の頃だと思うのですが、ぼくには中学時代の記憶がほとんどありません。親に反抗すれば覚えているものですが、父親に反抗しようにも余りにも情けない父親だったので、反抗になりませんでした。何しろ「食べるものがないから働け!」と言うと、「何でワシだけ働かすんじゃ〜」と、情けない声で言うような父親でしたから。

 ぼくの反抗は、今考えると義母に向いていたかもしれません。ぼくが小学校5年生ぐらいの時に、父親が再婚しました。再婚といっても、父親が突然女の人を家に連れて来て、その日から一緒に暮らすようになったのでした。その人は父親より少し年上の人で、誰に紹介してもらったのか、どういう人なのか、父親は何も話しませんでした。

 その女の人は無口で、文盲で、煙草をよく吸う人でした。名前は「おしゅん」と言いました。その人を「お母さん」と呼ばなくてはいけないのですが、どうしても言えないので「オバサン」と言っていました。そして、ぼくが高校を卒業するまで一緒に暮らしました。

 オバサンが来てから父親は、鉱山や工場で働くようになり、オバサンも山に入って、ガンビ(雁皮)という皮の部分が高級和紙の材料になる木を採っていました。それを束ねたものを背負い、ボロボロの服を着てガンビを1本づつ歯で剥きながら歩いている姿はちょっと異様で、小学校の前だけは通って欲しくないと思っていると、「アキラちゃんのオカンが通りょうるで〜」と、同級生がちょっとバカにして言うことがありました。恥ずかしくて、「何で学校の前を通るんだ!」とオバサンを怒鳴り付けたい気持ちでした。

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