あったのは食欲と性欲だけ…? 壊れた母性本能とグレることすらできなかった少年! 末井昭の性格が捻じれた少年期~青年期とは?


【連載】猫コンプレックス 母コンプレックス――異色の精神科医・春日武彦と伝説の編集者・末井昭が往復書簡で語る「母と猫」についての話

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<第11回 末井昭→春日武彦>

■■■■■壊れた母性本能と工場への失望■■■■■

春日武彦さま

 もうすぐ桜も満開になります。アオ〜〜ン、アオ〜〜ンと、うるさかった猫たちの鳴き声もピタリと止みました。猫の春の発情期は2月〜4月だそうですが、近所の猫たちはさっさと相手を見付けて、今頃は交尾の真っ最中なのでしょう。2カ月後には赤ちゃんが生まれます。我が家の庭に、新顔の猫が現れるかもしれません。

 猫が出産するのは春と秋で、〈ねず美〉ちゃんの初出産は9月の終わり頃でした。うちに来てから1年後、2回目の発情期に妊娠しました(1回目の時はまだ早いと思い、外に出しませんでした)。体が小さい猫なのでお腹がぽこっと膨れていて、妊娠していることはすぐわかりました。食欲も日に日に旺盛になるので、美子ちゃんがダンボールの箱にタオルを敷いてお産箱の準備をしたのですが、そこには入りませんでした。

 お産箱を作ったのは、布団の上とか洋服の上でお産されたら困るという人間の都合もあったのですが、そんな都合なんて猫には関係ありません。大体こちらが良かれと思って何かしても、猫はことごとく無視します。そういう時、こちらの都合を見破られたよう気持ちになり、小さな罪悪感を感じることがあります。そのうち忘れてしまって、春日さんのようにプチ罪悪感を楽しむ境地にはなかなかなれません。

 子猫が生まれたのは朝でした。朝目が覚めると二階からミャー、ミャーと、か細い鳴き声が聞こえて来るので美子ちゃんと行ってみると、たまたま戸が開いていた、普段は使ってない古い洋服を入れているクローゼットからでした。フェイクファーコートの中にいるようなので、コートの裾を持ち上げてみると、〈ねず美〉ちゃんの乳房に子猫が1匹吸い付いていました。「えっ、1匹?」と思ったのですが、もう1匹コートの外にいました。生まれたばかりのように体が濡れていて、時々か細い声でミャー、ミャーと鳴いています。

〈ねず美〉ちゃん初出産(写真:神藏美子)

 オッパイが吸えないようなので、その子猫を摘んで〈ねず美〉ちゃんの乳首に持って行ってみましたが、うまくくっ付きません。〈ねず美〉ちゃんは何をするでもなく、ただ見ているだけです。こうして弱い猫は、生まれた時にフルイに掛けられるのかと思ったのですが、あまりぼくらが何かすると〈ねず美〉ちゃんが嫌がるので、しばらくそっとしておくことにしました。

 しばらくしてクローゼットを覗くと、2匹とも〈ねず美〉ちゃんの乳房にくっ付いていました。満足そうな〈ねず美〉ちゃんの顔を見て、あれこれ心配しなくても〈ねず美〉ちゃんに任せておけばいいのだと思ったのでした。

 子猫たちが遊んでいるのを見ている〈ねず美〉ちゃんは、母親の眼差しでした。子猫が見えなくなると、ゴロニャン、ゴロニャンと、ゴロゴロとニャーンが混じった鳴き方で子猫を探しています。子猫が安心する鳴き方のようです。そうやって子猫が遊んでいるのを見守りながらも、ぼくの足にすり寄って来たり、美子ちゃんに甘えたりすることも忘れません。

 1カ月もすると〈ねず美〉ちゃんは、子猫を外に連れ出して木に登らせていました。遊びと教育を兼ねているのです。子猫が木にしがみ付いていると、木の下で心配そうに見上げています。

生まれた2匹の子猫(写真:神藏美子)

 ある時、子猫がいなくなったので、カラスに攫われたのではないかと心配したのですが、ソファーの裏に移動していました。母猫は時々子猫を移動させると、ペット・ショップのマダムが言っていましたが、確かにその通りでした。しばらくすると今度は押入れの奥に移動しました。外敵から子どもたちを守るための本能なのでしょうか。〈ねず美〉は誰に教わったわけでもないのに、常に子猫が良く育つようにしていました。

 犬でも猫でも、動物は本能に従って行動します。ところが、人間の場合、その本能が何らかの理由で壊れていて、本能のまま行動することが出来なくなったため、文化が発生したと言っている方は、心理学者の岸田秀さんです。

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