悲劇の現象学 Vol.2 

【秋葉原通り魔事件から13年】メディアが書かなかった、加藤智大が友人に預けた謎の“美少女”とは?

 2008年6月8日12時30分ごろ、東京・秋葉原の交差点に信号無視のトラックが突っ込み、歩行者5人をはねた。トラックは対向車のタクシーと接触して停車したが、降りてきたドライバーは怪我人を助けようとした通行人や警察官をダガーで次々と切り付けていった。男は奇声を上げながら、近くにいた人たちに手当たり次第に襲いかかり、買い物客でにぎわっていた歩行者天国は一転地獄のような様相となった。

 この秋葉原通り魔事件で逮捕された加藤智大死刑囚は、事件を起こす前、友人に段ボールを預けていった。その中に入っていたのは、まるで形見分けのような品々だったという。今回は、この形見の品に関する記事を再掲する。

 死刑判決が出た今でも、加藤死刑囚がどうしてあのような悲惨な事件を起こしたのか、その動機については不明点が多い。同様の事件の再発を防ぐためにも、事件を決して風化させてはならない。

(編集部)

事件現場。画像は「Wikipedia」より引用

 2008年6月8日に起きた秋葉原事件。神田明神通りと中央通りが交わる交差点の人混みに2トントラックで突っ込み、ナイフで切りつけて7人の命を奪った加藤智大被告。その凶行は社会に大きな波紋を広げた。

 事件後には、通行人らが携帯電話のカメラで捉えた生々しい現場の画像や映像が、インターネットで拡散。加藤被告が、事件直前まで犯行を示唆する書き込みを掲示板上で行っていたことも話題となり、ネット社会の暗部を浮き彫りにした。

 さらには同被告が、自動車工場で派遣社員として働き、待遇に不満を漏らしていたことも報じられ、非正規雇用の問題がクローズアップされる嚆矢ともなった。


■加藤被告が最後まで執着した、美少女!?

 だが、加藤被告が事件を起こした日の朝、ある友人に自分の“形見の品”を残していったことはあまり知られていない。

 当時、事件を取材した新聞記者は、「加藤が訪ねたのは自動車工場の同僚だ。2人はプライベートでも遊ぶ間柄。先輩格の加藤が秋葉原まで観光案内をするなどして交流を深めていたようだ」と振り返る。

 その友人に加藤被告からメールが入ったのは、事件発生の約5時間前。

 来訪を告げて数分後、事件に使われたトラックに乗って現れた加藤被告の手には、1個の段ボールがあった。

「その友人が、『預かってほしい』と託された段ボールの中には、いわゆる萌え系のCDやDVDが数枚入っていた。加藤被告のオタク趣味が反映された、お気に入りの品々だった」(同)

 そのラインアップは、かなりマニアックだ。声優が猫なで声でひたすら「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と呼びかけるCDや、一般に知られていない同人系のアニメDVD……。凶器に使われたものと同種のダガーナイフも同梱されていたという。

 孤独な殺人者が、心の隙間を埋めた「アキバ系」。特に傾倒したのが、武装した美少女による「殺人ショー」だ。

「ご執心だったのが、『東方』シリーズ。美少女のキャラクターがナイフや弾丸を敵に浴びせて倒していくというゲームで、アニメや漫画などの派生作品も制作されている。身体改造をした美少女の殺し屋の活躍を描いた『ガンスリンガー・ガール』なるアニメ作品もお気に入りだった。血なまぐさい戦闘と美少女のモチーフに魅了されていたようだ」(週刊誌記者)

 加藤被告は、自動車工場での単調な作業の合間を縫って秋葉原に繰り出し、空想の世界にひたった。アニメや漫画に登場するような模造銃や模造刀を扱うショップにも出入りし、現実世界との危うい均衡を保っていた。

「教育熱心だった母親への反発や、女性へのコンプレックス、ネットコミュニティーでの孤立など、動機はいまだ判然としない」(捜査関係者)

 ただ、シャバでの最後の地に秋葉原を選んだのは象徴的だ。唯一の拠り所だった場所で、すべてを終わらせたかったのかもしれない。

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文=KYAN岬

ルポライター。元大手新聞社社会部記者。事件取材の経験が豊富。警察、裏社会に独自の人脈を持つ。

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