読んだら後悔するほど怖い怪談「血蟲の村」 ― 消える家族、触れたら死、見てはいけない岩… 北九州“呪われた村”の実話(川奈まり子)

 しかし、引っ越しから3年ほど経ち、家を増築することになり、再び地鎮祭を執り行おうとしたところ、やにわに空が掻き曇り、突如、強風が吹いてきて祭壇が爆発でもしたかのように一瞬で激しく壊れるという珍事が起きた。

 白昼、父の親族でもある神主や、巫女も居合わせる中での出来事だった。

 増築工事は、以前とは別の工務店に依頼して、進めてもらうことになったが、これで父の考えがあらたまり、家族全員で厄祓いしてもらった

 ところが、それでも怪異現象は一向に収まらなかった。

 それどころか、新たにこんなことが頻々と起きるようになってしまった。

 ――ある日、学校から帰った美津子さんは、玄関から奥へ向かう廊下に母の姿を認め、「お母さん、ただいま」と呼びかけた。

 しかし母は聞こえなかったようすで、奥へ奥へと歩いていってしまった。

 その歩様が、なんだかいつもと違い、ずるりずるりと足を引き摺っていて鈍いので、美津子さんは気になり、「お母さん!」と尚も呼びながら急いで後を追った。

 前に回り込んで表情を見ると、顔つきも普通ではない。

 ぼんやりして、魂が抜けてしまったかのような無表情だ。

「やだ、どうしたの?」と話しかけながらついていって、一緒に居間に入った……と思った途端に、母の姿がスーッと薄くなって掻き消えた。

 その直後、美津子さんの悲鳴を聞いて、台所の方から母が駆けつけた。

 美津子さんが今見たことを説明すると、母はずっと台所にいたと言って、最初は美津子さんの話を信じなかったが、後日、今度は自身が美津子さんの幻を目撃して、信じるようになった。

 美津子さんは、姉の幻にも遭遇した。

 姉の幻も無表情で動きが遅く、煙のように掻き消えた。

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画像は「Getty Images」より引用

 この時期、家族4人とも、お互いの幻をそれぞれ少なくとも1回は見たが、幻の家族が出現するのは家の中に限られた。

 同じ頃に、増築工事を任せている工務店の棟梁が、この家に使われている木材や工法などを調べるために訪ねてきた折に、玄関に異常があることを発見した。

「庇の支柱が4本とも逆柱だ! それにこれは相当な年代物だ。一般住宅の柱とも違う。元は神社か何かで使われていたものじゃないかと思う」

 その場に立ち会っていた父は、これを聞いて青ざめた。

 宮柱である彼は、この家を建てる少し前に、神社で古いお堂を取り壊したことを知っていた。そして、その工事を請け負ったのが、上棟式の日に喧嘩した親方の工務店だったのだ。

あいつ、うちに呪いを掛けやがったな! そのせいで奇妙なことが起きたり、みんな病気がちになったりしているに違いない! 呪いの印が他にもあるかもしれないから、手分けして探そう!」

 父の号令で、4人がかりで家中を点検しはじめた。

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