読んだら後悔するほど怖い怪談「血蟲の村」 ― 消える家族、触れたら死、見てはいけない岩… 北九州“呪われた村”の実話(川奈まり子)

 両親が警察署から帰ってきて、そこで聞いたことを詳しく報告してくれたのだ。

 それによると、昨夜の8時頃から9時頃の間に、家の真ん前の道路で人が殺されたのだという。

 しかも、殺害現場は居間から見える場所なのだそうだ。

 今朝早くに男性の遺体が近くの山林で発見され、容疑者の男もすぐに逮捕されたのだが、ここに車で連れてきて殺したと自供しているというのだ。

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画像は「Getty Images」より引用

 さらに、殺すのは容易なことではなく、怒鳴り合い、しばらく揉み合った末に出刃包丁で刺して、ぐったりした被害者を引き摺って、乗ってきた車のトランクに詰め、山に捨てにいった……と、容疑者が話しているとのことだった。

「犯人は、助手席に乗せた被害者をどこで殺そうかと考えながら車を走らせて、そうしたらここで大きな廃屋を見つけて、これなら敷地が広くて、隣の家から遠く離れているから、人を殺すのに向いていると思ったと自供しているそうだ。窓ガラスが割れていて、廃墟になっていた、と……。

 でも、被害者が抵抗したため、庭中、追いかけ回した挙句、前の道路でとうとう殺したんだと。その間、怒鳴ったり悲鳴をあげたりと大騒ぎしたけれど、誰にも気づかれなかった。なぜならここは廃墟で、人が住んでいる気配もなかったから当たり前だったと話していて、何度訊問しても言うことがブレないそうなんだが……」

 家の前の道路には大量の血痕が残っていた。

 確かに、ここで殺人が行われたのだ。

 この事件の直後、美津子さんたちは他所の町に引っ越した。

「引っ越しをする日の朝、起きたら、夜のうちに家の前の道路がぼっこりと陥没して大きな穴があいていました。まるで、出ていかせまいとするかのように……。

 それで余計に、もう1日たりともここにはいられないと家族全員震えあがって、大急ぎで支度をして、家の外に出たんです。

 そうしたら、そのとき、私たちの足の間を縫うように、大きな鼠が一匹、廊下の奥から玄関を通って、外へ駆け抜けていったんですよ……。

 もう二度とあそこには戻りたくありません。父は宮柱としての務めがあるからと行事の度に帰郷していますが、よく平気だなと思います。

 ……あの親方ですか?

 なんでも、私たちが出ていった後、いくらも経たずに、亡くなったそうですよ」

(了)

文=川奈まり子

東京都生まれ。作家。女子美術短期大学卒業後、出版社勤務、フリーライターなどを経て31歳~35歳までAV出演。2011年長編官能小説『義母の艶香』(双葉社)で小説家デビュー、2014年ホラー短編&実話怪談集『赤い地獄』(廣済堂)で怪談作家デビュー。以降、精力的に執筆活動を続け、小説、実話怪談の著書多数。近著に『迷家奇譚』(晶文社)、『実話怪談 出没地帯』(河出書房新社)、『実話奇譚 呪情』(竹書房文庫)。日本推理作家協会会員。
ツイッター:@MarikoKawana

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