読んだら後悔するほど怖い怪談「血蟲の村」 ― 消える家族、触れたら死、見てはいけない岩… 北九州“呪われた村”の実話(川奈まり子)

 老後は地方に移住して悠々自適の田舎暮らし――昨今、そんな甘い夢も破れて久しい。隣近所と助け合うことなく、深い人間関係を築くこともできない都市部からの移住者は、地元の住人にとって悩みの種となっている。そんな話をあちらこちらで聞くようになった。

 当然「移住」問題の裏表として、日本の総人口減少と空き家問題が見えてくる。コロナ禍によって都会に住んでいること自体が呪いとなった現在、他人と社会的距離を取りながら暮らせる地方の奥深い田舎に憧れる人々も多い。

 しかし、本当にそうだろうか。奥深い田舎には田舎なりの苦労があり、その苦労には何かしらの歴史なり謂れなりがある。「いわく憑き」の物件もあり得るのだ。

 すでにトカナでは、この問題を見据え、ある実話を掲載している。都市と田舎、移住と空き家、人口減少という日本の抱える大問題の仄暗い底には一体何があるのか。引越しを考えるすべての読者のために、以下、2019年8月の記事を再掲する。

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川奈まり子の連載「情ノ奇譚」――恨み、妬み、嫉妬、性愛、恋慕…これまで取材した“実話怪談”の中から霊界と現世の間で渦巻く情念にまつわるエピソードを紹介する。

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画像は「Getty Images」より引用

<前半はこちら> 呪いの村での出来事

【二十六】血蟲の村(後)

 斎川美津子さんの母(東北地方の巫女の家系出身だという)が『血蟲の呪い』と呼ぶ、一家に災いをなした呪いがかけられた発端は「家」だった。

 美津子さんが小学6年生の頃に、彼女の両親は家を新築することにした。

 それまで住んでいた家を取り壊して建て直すのではなく、集落内の別の所にまた新しく家を建てることにしたのだ。

 この辺りでは「宮柱」と呼ばれる千年以上の歴史を持つ社家の一族の例に漏れず、美津子さんの父も集落内にそれなりに広い地所を有していた。

 そこで、住み慣れた家で生活を続けながら、新しい家の竣工を待つことにしたわけだ。建設予定地は徒歩圏内だったから、進捗状況を見に行ったり、工事作業員の人々に差し入れを持っていったりすることも容易に出来る。美津子さんと姉が転校する必要もない。

 地鎮祭は滞りなく行われた。この頃までは美津子さんたち家族は、ただもう、新しい家の竣工を楽しみにしていただけだった。父が祖父母から継いだ家は古く、現代の生活にマッチしているとは言えなかった。今度の家は住み心地を重視したモダンな建築だから、引っ越す日を4人全員が心待ちにしたのである。

 やがて上棟式の日がやってきた。

 このときまでに、美津子さんの母は、家の建築を任せた大工の親方――工務店の社長――に対して不満を持つようになっていた。

 というのも、彼女が建設現場に労いに行くと、いつも親方は酔っ払っており、しらふでいたためしがなかったのだ。

 美津子さんの母は、生来、生真面目で規律を重んじた。そういう人の常として、他人に対しても厳しかった。

 従って当然この親方に対して嫌悪感を抱かざるを得なかった。

 それにまた、彼女は真面目な性質だから、親方があんなようすでは作業員に示しがつかず、その結果、工事が杜撰になる恐れもあるし、第一、怪我でもされたら……と、ひどく気を揉んだ。

 しかし親方の工務店は、この集落では老舗中の老舗であり、親方自身もルーツを辿れば宮柱の一族よりも古くからこの地に根づいていた杣人に辿りつくため、角を立てるようなことはおいそれとは出来ない。

 それに、親方は粗野な雰囲気を漂わせる男であり、怒らせたらどうなることかと思うと、彼女が自ら動くことには躊躇があった。

 そこで夫に「何かひとこと言ってやってくださいよ」とお願いしたのだが、曾祖父母の代よりもっと昔から地縁で繋がった相手と揉めたくないのは、美津子さんの父も同じか、それ以上だった。

 また、父自身は新しい家の建設現場を訪れたことがなかったため、親方が仕事中に酔っ払っているところを目撃していなかった。

 そこで彼は、妻の訴えを聞き流す方を選び、「早く親方に注意してください」と急かされるたびに適当な理由をつけて逃げ回った。

 ――そのうち上棟式を迎えることになってしまったわけである。

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