試験管で誕生した人間の脳から「目」が生じ始める! 光に反応、“見えるようになる”可能性も…!?
研究室で培養した脳が驚きの“進化”を遂げている――。人工的に作られた脳に、なんと“眼球”が形成されつつあるというのだ。
■脳オルガノイドが初期的な眼を形成
試験管など生体外の環境で3次元培養によって作製された“ミニ臓器”がオルガノイド(organoid)だ。現在オルガノイドの研究は各国で着々と進められており、これまでにも鼓動を打つ小さな心臓のオルガノイドや、涙を流すことができる涙管(tear duct)のオルガノイドなどが作製されている。また“ミニブレイン”と呼ばれる脳のオルガノイドの作製も各研究者によって盛んに行われており、脳波を発する(つまり生きている?)ものまで登場している。
そして今回、独・デュッセルドルフ大学病院をはじめとする合同研究チームが「Cell」で発表した研究では、脳オルガノイドが左右対称の初期的な眼を徐々に発達させていることが報告されている。ミニブレインが自ら眼球を獲得しようとしているのである。
我々は、網膜が視神経を介して脳に信号を送ることで視ることができる。デュッセルドルフ大学病院の研究者であるジェイ・ゴパラクリシュナン氏は「哺乳類の脳では網膜神経節細胞の神経線維が脳に接続するために手を伸ばしている。かつて試験管内システムで、これを再現したものはなかった」と述べている。しかし、今回確認された脳オルガノイドは、初期の眼球である眼杯(optic cup)を発達させるだけでなく、網膜と脳を繋ぐ神経細胞まで発達させているのである。
研究チームは、眼杯を備えたミニブレインを作製するために、iPS細胞(人工多能性幹細胞)から脳オルガノイドを培養した。脳オルガノイドの発達プロセスにおいて、眼杯は早くも30日で出現し、50日以内に成熟した。これは人間の胚で網膜が発達するのと同様の時間枠であるというから驚きだ。
今回、研究チームは合計で314のミニブレインを作製し、それらの72%が眼杯を形成し、光に反応するアクティブな神経細胞ネットワークを形成するさまざまな種類の網膜細胞が含まれていた。脳オルガノイドはまた、水晶体と角膜組織を形成したということだ。
実験室のミニブレインが周囲を見渡す目まで獲得しようとしているのだとすれば不気味ではあるが、興味深く将来性のある研究だといえるだろう。
■自分の新しい眼球を作ることができる未来
科学者が研究室でこのような脳オルガノイドを成長させている最大の理由の1つは、これらのオルガノイドは人間の脳の発達とそれに関連する病気の研究に役立つことである。
この新しい脳オルガノイドは(眼杯とともに)発達中の脳と眼の相互作用を研究するために有効活用できるとゴパラクリシュナン氏は説明する。さらに、それらは網膜障害の研究にも役立ち、将来的には治療のためにパーソナライズされた網膜細胞の作製につながるということだ。いわば視覚に問題を抱えた患者のために網膜細胞の“スペア”を作ることができるのである。
「光に敏感で、体内に見られるものと同様の原始的な感覚構造を生成する脳オルガノイドの驚くべき能力が際立っています」(ゴパラクリシュナン氏)
研究者たちは当面、眼杯を長期間生存させ続ける方法を見つけ出し、網膜障害の背後にあるメカニズムを研究できる日が来ることを思い描いている。実験室で自分の新しい眼球を作ることができる未来は近いのだろうか。今後の研究の進展に期待したい。
参考:「Live Science」、「ScienceDirect」、ほか
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