“脳で直接見る”時代に…「目がなくても見えるようになる技術」爆誕

 遂に人類が視覚障がいを克服する日がやってきたのか――。“人工網膜”によって視覚情報を直接、脳の視覚野に届ける画期的なシステムが開発されたのだ。


■脳で直接ものを見るシステムの開発に成功

 失った視力を再び取り戻すことはできるのか――。この難題に果敢に挑む研究者たちがいる。

 スペインのミゲル・エルナンデス大学をはじめとする研究チームが今年10月に「The Journal of Clinical Investigation」で発表した研究では、「人工網膜」によって収録された視覚情報を視神経を介さずに直接、脳の視覚野に伝達することでものを見ることができるという驚くべきシステムが紹介されている。

 視覚障がい者が単純なパターンを見ることができる眼球インプラントはすでに存在しているのだが、このスペインの科学者は別のアプローチで成功を収めた。彼らは目を迂回し、脳の視覚野を直接刺激することによって知覚可能な画像を生成したのである。

脳で直接見る時代に…「目がなくても見えるようになる技術」爆誕の画像1
「Futurism」の記事より

 このシステムは、ユーザーが着用する通常の眼鏡に取り付けられた「人工網膜」を“目”に見たてている。デジタルカメラのように目の前の視覚情報を把握した人工網膜は、その視覚情報を電気信号に変換して、ユーザーの脳に埋め込まれた96個の微小電極に送信するのである。そして装着者は脳で“見る”ことができるのだ。

 大脳皮質内にある視覚野に埋め込むインプラントの幅はわずか4mmで、小さな電極はそれぞれ1.5mmの長さである。96個のインプラントは視覚野のニューロンの電気的活動を刺激および監視することができ、その刺激は人工網膜によって伝達される光のパターンを知覚することを可能にしているのである。

 テクノロジーで視力を回復させる研究は、これまでは視神経を媒介にする“ハイテク義眼”というコンセプトで進められていたのだが、今回開発されたシステムは脳で直接“見る”ことを可能にするという“発想の転換”による画期的なものだ。視覚を失った方々にとって希望がが持てるシステムであることは間違いない。

脳で直接見る時代に…「目がなくても見えるようになる技術」爆誕の画像2
画像は「Unsplash」より

■ボランティアによる装着実験で有効性が確認される

 もちろんこのシステムは決して“机上の空論”などではない。

 16年前に全盲になった57歳の女性がボランティアとして研究に協力し、実際に脳にインプラントを埋め込んだのである。そしてデバイスによって生成された画像の解釈を学んぶためのトレーニングの後、彼女は特定のオブジェクトの文字とシルエットを識別することができたのだ。明るさの明暗だけでなく「物体の境界を認識する」こともできたということだ。

脳で直接見る時代に…「目がなくても見えるようになる技術」爆誕の画像3
「New Atlas」の記事より

 脳に電極を埋め込むというアイデアに懸念を抱く向きもあるのだろうが、研究チームは、人工網膜システムが視覚野周辺の脳の領域に影響を与えなかったことを確認している。また基本的にこれまでのインプラントに比べて安全で邪魔にならなず、必要とされる電気的刺激も低レベルであるということだ。実験は成功に終わったといえるのだが、6カ月の使用後、最終的にこのシステムは女性の脳から取り除かれた。

 もちろんこの技術がより大規模に展開される前に、より多くの研究が必要であるが、これまでのプロセスは実に有望である。この技術によって特定の種類の失明は、少なくとも最先端の医療にアクセスできる人にとっては、すぐにでも完全になくなる可能性があるということだ。

 はたして失った視力を再び取り戻すという人類の悲願が達成する日は近いと言えるのだろうか。研究開発の進展を見守りたい。

参考:「Futurism」、「New Atlas」ほか

文=仲田しんじ

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