【3.11から11年】被災地で幽霊目撃談が多い切実な理由

■幽霊話が生まれる本当の意味

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画像は「Getty Images」より引用

 このように幽霊話がメディアで取り上げられるようになったのは、大震災から時が経つにつれ、タブー視されていたものを語ってもよいのではないかという雰囲気が少しずつ生まれてきたという背景もあるようだ。さらに、カウンセラーや学者たちによると、大災害や悲劇的事件の後の幽霊話は、日本では一般的なものであって、それが社会的な「癒しのプロセス」にもなるのだという。

 前述のAFP通信の記事で、文化人類学者の船曳建夫氏は、人間は本来、突然の死を受け容れられないものだとして、「その社会で納得できなくてたまっているものがどう表現されるかというと、噂話であったり、まつりの中で供養するなどということになります。社会的に共有できるものに変えるということがポイントです」(AFPBB News、2012年3月3日)と語っている。このことは、科学技術が発達した現代の日本でも、そう変わらないようなのだ。この説に合致すると思しき実例を、以下に紹介しよう。

・ にこやかな母の表情に救われ……
 仙台市の地方紙・河北新報が、2015年2月26日の記事で紹介している岩手県山田町の公務員・長根勝さんは、大震災で母を亡くした。ある日、その母がニコニコした表情で18歳の娘の夢に現れた。娘が「なぜ津波で逃げなかったの」と聞くと、困ったような顔をしたという。その後、勝さん自身も夢の中で、台所で家事をする母を見た。にこやかな表情だったので救われた思いになったという。勝さんは、その体験を経て「怒りのような感情が薄らいでいった」と語っている。

・ 体験者は幽霊を怖がらない
 河北新報の2015年2月27日の記事が紹介しているのは、浄土真宗本願寺派の僧侶・金沢豊さんだ。金沢さんは、毎月のように京都から岩手の被災地へと赴き、これまで200軒の被災者を訪ねているが、超自然的な話や幽霊話を聞くことも多いという。「金縛りになって誰かの顔が見えた」、「津波で亡くなった妹に見られている」といった具合だ。しかし、そのような話をしてくれる人々の顔は、恐怖ではなく慈しむような表情であるという。

・ 見守られている感覚が、生きる希望に
 同じく河北新報の2015年1月4日の記事で紹介されているジャーナリストの奥野修司さんは、被災地を回り、犠牲者の霊を見たという家族や知人からの聞き取りを進めている。そのきっかけは、医師への取材で、死者の「お迎え」の重要性に気づいたからだという。その医師によれば、いまわの際に、亡くなった両親や親類の姿を見る患者の死に方は穏やかだという。最愛の夫を亡くしたある女性は、自暴自棄に陥り、死にたいと思う日々を送っていたが、ある時、夫の霊に会い、見守られている感覚が芽生えて「お父ちゃんと一緒に生きよう」と思い直したそうだ。


 確かに、被災地で幽霊を見たという話の中には、単なる興味本位の怪談で終わっているものもある。しかし、こうして見てきたように、特に亡くした肉親や友人との「再会」を果たしたというケースでは、恐怖よりも感動の方が先立つことが非常に多いようだ。「日本人の約2人に1人が幽霊の存在を信じている」という調査報告もあるようだが、震災で大切な人を失った被災者にとって、「たとえこの世にいなくても、あの世で生きている」と考えることが、明日へ一歩を踏み出すための大きな力になっている可能性がある。

 多くの死者が出た大災害で、幽霊の話をすることは「不謹慎」に感じられる気持ちも理解できる。しかしそれ以上に、犠牲者の肉親や知人など、残された人々にとっての救いに繋がる面もあることを理解しようとする姿勢が大切ではないだろうか。

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文=百瀬直也

超常現象研究家、地震前兆研究家、ライター。25年のソフトウエア開発歴を生かしIT技術やデータ重視の調査研究が得意。
Webサイト:百幸.com
ブログ:『探求三昧』
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Twitter: @noya_momose

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