幽霊が自分の殺人事件を解決した「グリーンブライアの幽霊」とは? まさかの真犯人、紛糾する法廷…

 米・ウェストバージニア州南部にあるグリーンブライア郡では、幽霊の証言が殺人者の有罪判決を後押しした唯一の事件として「グリーンブライアの幽霊」という話が喧伝されている。不可解な死を遂げた娘の母親が、超常現象を体験したことをきっかけに、隠蔽されかけていた事件の真相が明らかに。この話は、どれほど非科学的であろうとも、我々は本質的に“幽霊”を無視することはできないということを裏付けている。以下、TOCANAの過去記事を再掲する。

※ こちらの記事は2021年8月2日の記事を再掲しています。

 殺された娘の霊が母親を衝き動かしたのか――。驚くべきことに、かつて心霊現象が法廷に影響をもたらし結審に至った殺人事件がある。

熱愛新婚カップルの妻が変死

 当然だが法廷での証言や言及には、科学的客観性が伴っていなくてはならない。もちろん発言者の信念に基づく発言は宣誓供述として受け入れられることもあるが、そこに客観的な証拠があるのか、それともないのかについては白黒はっきりつけられる。

 しかし過去、驚くべきことに殺された者の“幽霊”からのメッセージが裁判を左右した興味深いケースが残されている。いったいどういうことなのか。

 米・ウェストバージニア州南部にあるグリーンブライア郡に、ある“年の差婚”のカップルがいた。歳の離れた年長の夫は鍛冶屋のエドワード・シューで、妻はゾーナ・ヘスターであった。

 ヘスターの母親メアリー・ヘスターはこの結婚には反対で、年の差についてはもちろん、シューがこれまで2回結婚していることに何か危険を感じていたのだ。しかも、シューの2人目の妻は不審な死を遂げていたのである。

 母親の反対にもかかわらず、熱愛の末に結婚した2人だが、残念ながら新婚生活はわずか3カ月しか続かなかった。

 1897年1月23日、使いの少年が用事で新婚夫妻の家を訪れた時、家には誰もいないようだった。少年は本当に誰もいないのかを確認するため声をかけながら家の中に入ってみると、階段のふもとの床の上に酷い形相のゾーナの死体を発見して驚くことになる。ゾーナの目は大きく見開かれ、恐怖の形相で天井を見上げていたのだ。

 驚いて腰を抜かした少年はすぐ家に帰り、母親にこの恐ろしい発見について話した。母親は地元の医師にこの件を伝え、夫妻の家に行くように促した。しかし、すぐには動けなかった医師が夫妻の家に着いたのは連絡があってから1時間後のことだった。

 それまでの間に、シューはゾーナの遺体を2階の寝室へと運び、ベッドに寝かせ、死因となった首の打撲傷を覆い隠すようにハイネックのドレスを着せて顔を布で覆った。

 医師が到着し遺体を検査している間、シューは悲しみに暮れてずっとすすり泣いていた。ゾーナの首の打撲傷に医師が気づき、さらに遺体を検分しようとするとシューはそれを遮り、愛する者の遺体にこれ以上手をかけてほしくないと願い出て、検査を中断させたのだった。

 医師は結局、ゾーナは妊娠に関係した何らかの症状で死亡したと診断した。その後、ゾーナの葬式が行われ、参加者の目には深いショックと悲しみに打ちひしがれている夫シューの姿が深く印象づけられた。ゾーナの遺体の首にはスカーフが巻かれていたという。

“幽霊話”が法廷に影響を及ぼす

 ゾーナの母親、メアリーは医師の診断に納得しておらず「悪魔が娘を殺した」と主張していた。そして関係者の中で唯一、メアリーはシューに疑惑を抱いていたのだった。

 メアリーはシューの前妻の1人が不可解な状況で亡くなっていることを知り、その疑念をますます深め、ある日「シューが娘を殺した」という謎の声を聞いたのだった。

 さらにある晩、就寝中だったメアリーの夢に娘のゾーナがあらわれ、殺された経緯をすべて語ったのだ。シューは暴力を振るうDV夫であり、頻繁に彼女を殴り、何度も虐待した。そして、シューはゾーナの喉をつかんで首を折り絶命させたというのである。

 夢の中で事件の詳細をリアルに語るゾーナの話がすべて本当のことだと確信したメアリーは、すぐに郡検察官のジョン・アルフレッド・プレストンに内容を伝えた。

 もちろんブレストンは夢の中に出てきたゾーナの幽霊話を証拠として採用することはなかったが、遺体を調べた医師がシューに妨害されていた事実が明るみになり、ゾーナの遺体が墓から掘り出されて詳しい検死に回されることになったのだ。

 そして、検死によって遺体の喉に指の形の打撲傷があり、気管が押しつぶされ、首の骨が折れていることが判明した。つまり、ゾーナは殺害されたことが明らかになったのである。

 そしてシューは妻を殺害した容疑で直ちに逮捕され、裁判が行われた。

 ゾーナの幽霊の話が証拠になることはなかったが、裁判が進むうちにその話が妥当なものであることがほかの状況証拠から徐々に明らかになったきたのである。

 しかし、シューとシューの弁護士は、法廷で幽霊話を持ち出すメアリーを認知機能が低下した信頼できない証人にしようと論陣を張り、この試みは成功するに違いないという確信を得ていた。

 裁判官も幽霊の話は無視するようにと何度も忠告していたのだが、陪審員は満場一致でシューを有罪とし、最終的に終身刑が言い渡された。幽霊が法廷に影響を与えたのだ。

 投獄されたシューは急激に衰弱し、3年後の1900年3月にインフルエンザ感染をきっかけに獄死した。一方でメアリーは1916年9月まで生き永らえている。

 この一件は「グリーンブライアの幽霊」として地元で語り伝えられ、「幽霊の証言が殺人者の有罪判決を後押しした唯一の事件」として誇らしげに喧伝されている。「グリーンブライアの幽霊」にちなんだゴーストツアーも行われているということだ。

 幽霊という、いわば超常現象が裁判に影響を及ぼしたケースとして興味深い「グリーンブライアの幽霊」が我々に語りかけていることの意味は大きい。それがどれほど非科学的であろうとも、我々は本質的に“幽霊”を無視することはできないのだ。


参考:「Mysteries Universe」、ほか

文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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