人間の脳を持つマウスは可能!? 移植した脳が成長、視覚刺激に反応…

 人間のように考えて行動するマウスが出現する日は近いのか――。マウスの脳に移植された人間の「ミニ脳」が神経接続を確立し、視覚刺激に反応したことが最新の研究で報告されている。人間のようにモノを見て理解しリアクションするマウスが登場するのは時間の問題なのだろうか。

マウスに移植したミニ脳が視覚刺激に反応

 3歩歩いて物忘れする人を「鳥の三足(とりのみあし)」と評して揶揄するケースがあるが、その意味するところは脳ミソが鳥並みだという嘲りである。

 では逆に、まるで人間並みの脳を備えた動物は存在し得るのだろうか。

 カリフォルニア大学サンディエゴ校をはじめとする合同研究チームが2022年12月に「Nature Communications」で発表した研究では、 マウスの皮質に移植されたヒト脳オルガノイドが初めて視覚刺激に反応したことを報告している。

 人間の多能性幹細胞から実験室で作製・培養する人工脳「脳オルガノイド」は、「ミニ脳」とも呼ばれ神経精神疾患の治療法の開発や再生医療、基礎研究などにおける活用が大いに期待されている。

 科学界ではこのミニ脳が意識を持ち得るのかについての活発な議論と研究が行われてきているのだが、その一方で2022年10月にスタンフォード大学の研究チームがミニ脳を生後間もないマウスの脳に移植し、神経回路を形成させることに成功したと発表し話題を呼んだ。

人間の脳を持つマウスは可能!? 移植した脳が成長、視覚刺激に反応…の画像1
画像は「Pixabay」より

 そしてさらにそこから1歩進み、今回はマウスに移植したミニ脳が視覚刺激に反応したことが報告され、この分野での研究の進展が日進月歩の勢いで進んでいることが示されることになった。

 それまではマウスの脳に移植された人間のミニ脳が同じ機能特性を共有し、同じように刺激に反応できることを証明できた研究はなかった。これは、脳機能を記録するために使用される技術が限られているためであり、わずか数ミリ秒続く活動すら記録することができなかった。

 研究チームは2014年に最初に透明なグラフェン電極を開発し、それ以来、この技術を着実に進歩させてきた。そして今回、白金ナノ粒子を使用してグラフェン電極のインピーダンス(交流回路における電流の流れにくさ)を100分の1に下げて透明性を維持すると共に、マクロスケールと単一細胞レベルの両方でニューロン活動を記録および画像化できる技術を開発したのだ。

 この革新的な神経記録技術の組み合わせは、損傷した脳領域の機能を回復するための神経補綴物としてのミニ脳の活用に繋がるものとして大いに期待できるという。

人間の脳を持つマウスは可能!? 移植した脳が成長、視覚刺激に反応…の画像2
「Mysterious Universe」の記事より

人間の脳で考えて行動するマウスが出現する日

 移植されたミニ脳の上にこれらの最先端の電極を配置することにより、移植されたミニ脳と周囲のマウスの皮質の両方からリアルタイムで神経活動を電気的に記録することができた。2光子イメージングを使用して、マウスの血管がミニ脳に入り込んで成長し、必要な栄養素と酸素をミニ脳に提供することも観察されたのである。

 研究チームはマウスが2光子顕微鏡の観察下にある間に、ミニ脳が埋め込まれたマウスに視覚刺激(白色光LED)を照射した。するとミニ脳の上の電極の電気的活動が観察され、ミニ脳が周囲の組織と同じように視覚刺激に反応していることが示されたのだ。

 電気的活動は移植されたミニ脳領域の視覚野に最も近い領域から機能的接続を介して伝播し、低ノイズの透明グラフェン電極技術によりミニ脳と周囲の皮質からのスパイク活動の電気的記録が可能になったのである。

 グラフェンの記録では、ミニ脳からのガンマ振動のパワーと、マウス視覚野からの遅い振動に対するスパイクの位相ロックの増加が示された。これらの発見によりミニ脳が移植後3週間で周囲の皮質組織とのシナプス接続を確立し、マウスの脳から機能的な入力を受け取ったことが示唆されることとなった。研究チームがこれらのマルチモーダル実験を11週間繰り返し行った結果、移植されたミニ脳と宿主のマウスの皮質との機能的および形態学的統合が示されたのである。

人間の脳を持つマウスは可能!? 移植した脳が成長、視覚刺激に反応…の画像3
画像は「Pixabay」より

 次のステップとしては、ミニ脳を脳の発達と疾患のモデルとして包括的に評価するための独自のプラットフォームとして機能させ、失われたり変性したり、または損傷した脳領域の機能を回復するための神経補綴物(neural prosthetics)としてミニ脳を活用する道を探ることが思い描かれている。

 そしてこの研究の副産物として近い将来に人間の脳を獲得し、人間と同じように考えて行動するマウスをはじめとする動物たちが誕生することになるのか、気に留めておく必要もありそうだ。

参考:「Mysterious Universe」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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