選挙カーの騒音は心理攻撃? 国民洗脳、ウソ伝説…亜留間次郎が徹底解説!

世界の選挙事情

 このように非常に効果が高いため、選挙カーは世界中で使用されてきました。しかし、現在では騒音規制の対象となったために減りました。それでも、日本をはじめとして韓国、台湾、ポルトガル、アフリカ諸国など現在も使用している国はたくさんあります。アメリカでも1970年に禁止になるまでは普通に走っていました。

 欧米で選挙カーが消えた理由には以下のようなものがあります。

・騒音規制
 欧米では、選挙活動であっても騒音規制の処罰対象となります。欧米ではWHOの勧告を基準に65デシベル以下に法規制されていますが、日本の拡声機暴騒音規制条例では85デシベル以下で諸外国より規制がゆるくなっています。日本の公職選挙法の定める選挙運動又は政治活動のための拡声機の使用は、法規制の対象外なので音量は無制限です。

・戸別訪問
 欧米の選挙では日本では違法な戸別訪問が認められています。直接本人の目の前で、複数人で取り囲んで連呼するほうが選挙カーより効果的です。実際に欧米の選挙では、戸別訪問を行う選挙スタッフをどれだけ確保出来るかが当選を左右しています。

・広告制限が無い
 欧米ではテレビ・ラジオ・ネットなどでの広報活動が無制限に認められており、メディアに支払う莫大な広告料が当選を左右しています。一方、日本では候補者が個別にメディアの広告枠を購入して宣伝することが禁止されており、規定された政見放送以外できません。日本ではインターネット活動すら、かなり近年まで禁止されていました。

 逆に言えば、日本では欧米で一般的な選挙活動が禁止されているため、選挙カーという半世紀以上前の手段に頼らざるを得ないとも言えるのです。

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画像は「Combat Speaker」より引用

 

インパールの演歌歌手

 さて、戦争が本格化すると、各国とも前線の敵火力の射程内にまで進出して放送を行うために、大型スピーカーを搭載したスピーカータンクを運用するようになりました。拡声器で相手にプロパガンダ攻撃を仕掛けるという発想が無かったのは、日本軍ぐらいだったんじゃないでしょうか?

 イギリス軍がインパールで、「放送中は攻撃しないことをお約束します、終わったら攻撃します」と流暢な日本語で呼びかけ、日本の歌謡曲を熱唱した後、日本軍の部隊名を言い当て、正確な他の日本軍師団の状況まで伝えた後に威嚇射撃して帰る――という攻撃を何度も繰り返し、日本軍の士気を挫いた話は有名です。

 最前線で飢餓に苦しむ兵士達の唯一の楽しみは、敵が放送してくれる歌謡曲……というのはなんとも皮肉な話というか、そうなるようにイギリス軍がしかけた成果なのですけど。

敵から聞いた『真実』

 第二次世界大戦の大失敗作戦の代名詞ともなったインパール作戦において、「牟田口将軍をはじめ、司令部が連日、料亭通いで贅沢三昧の生活をしていた」とか、「女の奪い合いで将軍が参謀大佐を兵隊の見ている前で殴りつける乱闘騒ぎを起こしている」とかとんでもない伝説が数多く残っています。これが本当に事実なのか追求した歴史研究家がいるのですが、事実だという確かな歴史的一次資料は見つからなかったそうです。

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牟田口廉也 画像は「Wikipedia」より引用

 前線で餓死寸前ながらも奮戦していた将校から兵隊までが、この伝説を戦後に証言しています。しかし、彼らのような最前線にいた人間が、後方にある司令部の腐敗ぶりを何時どこで知ったのかというと、イギリス軍の諜報機関が察知して最前線で行われたプロパガンダ放送から得た情報らしいのです。

 つまり、敵の言っていたことを信じただけで、誰一人として料亭や芸者の実物を見たことがありません。

 繰り返し放送を聞かされ続けることで、刺激に対する知覚情報処理レベルでの処理効率が上昇し、刺激への親近性が高まります。この親近性の高まりを、敵の放送自体への好意だと勘違いしてしまうのです。

 放送を繰り返し聞かされることによって、「司令部は料亭で芸者と贅沢三昧している」という概念が形成され、放送内容への既知感が上がってくると「幻想的な真実効果」によって不確定性が減り、好意度はますます上昇していきます。

 トドメに、自分が今直面している苦難の原因が上層部の無能にあるという現実がのしかかってくると、敵の言っていることを真実だと思い込むようになります。プロパガンダ作戦の完成です。

 そして、戦後になって敗戦の現実に直面すると、後知恵バイアスがかかり、「敵の放送から受けた情報が真実であった」と自身の回想がゆがめられます。

 こうして愚将・牟田口伝説が生まれました。

 

秘密の反逆者

 第二次大戦後、イギリス軍はプロパガンダ放送のアナウンサーとなった人物の身元を軍事機密とし、現在まで公表していません。いわゆる国家反逆罪に問われる危険性を心配しているのではないかと考えられます。

 実際にイギリス政府は、ドイツ軍のプロパガンダ放送のアナウンサーだったホーホー卿を国王に対する大逆罪で絞首刑にしています。

 GHQもアメリカのマスメディアに対して、日本が行っていた放送のアナウンサーだった東京ローズを探してはいけないと厳命しています。

「インパールの演歌歌手」の正体は、現在まで公表されていません。

参考:「Yahoo! News」、「抗命(高木俊朗著・文春文庫」、「参謀(安倍光男著・富士書房)」、ほか

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文=亜留間次郎

薬理凶室の怪人アルマジロ男。人間の皮を被った血統書付きアルマジロ。守備範囲は医学から工学、ノーマルからアブノーマルまで幅広く、アリエナイ理科ノ大事典など、くられ氏と共に薬理凶室関連の共著多数。単著に『アリエナイ理科式世界征服マニュアル』(三才ブックス)がある。よくわからないケダモノなのでよくわからないネタで攻めていきます。

公式サイト http://asai-laboratory.sakura.ne.jp/
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