チャールズ国王の戴冠式に用いられる「運命の石」とは? 英雄を生んだ70年前の盗難事件も紹介

 明日5月6日(現地時間)、イギリス・ロンドンのウェストミンスター寺院にて、チャールズ国王の戴冠式が行われる。この式典をもってチャールズ国王は正式にイギリスの君主として認められるのだが、戴冠式において重要なものが「運命の石」と呼ばれる石だ。

「運命の石(The Stone of Destiny)」は「スクーンの石(Stone of Scone)」「戴冠石(The Coronation Stone)」とも呼ばれる物で、持ち運ぶための鉄の輪が二つ着いた石である。大きさは約66センチ×42センチ、厚み約26.7センチで、重さは約152キロとかなりの重さがある赤色砂岩のブロックだ。

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スクーンの石のレプリカ(画像は「Wikipedia」より)

 この石はスコットランドのパース近郊にあるスクーン修道院に保管されていたもので、800年以上にわたってスコットランドの王と女王らが代々戴冠式を行っているという非常に由緒正しい石でもある。しかしこの石は過去に一度、なんとウェストミンスター寺院から盗まれてしまったことがあるのだ。

 1950年のクリスマスの日、グラスゴー大学に在籍するスコットランド人学生イアン・ハミルトン、 ギャビン・バーノン、 ケイ・マセソン、アラン・スチュアートの4人はウェストミンスター寺院からスクーンの石を盗み出すという大胆不敵な犯行を実行した。彼らはスコットランドの完全自治を支持する団体「スコットランド・コヴェナント協会」のメンバーでもあり、思想的・政治的な思惑が関係していたと考えられている。

 実行当日、イアンが夜警に捕まるもその時は軽く注意を受けただけで済んだため、4人は改めて夜警の動きを確認すると隙をついて寺院に侵入、礼拝堂にたどり着くと回りの柵を引き倒し、 椅子の下からスクーンの石を取り出そうとした。だが、そのはずみで石は床に崩れ落ち、その角が割れてしまったという。彼らはハミルトンの着ていたマッキントシュコート(ゴム引きのコート)を床に敷き、大きい方の破片を高い祭壇の階段から下ろしてコートの上に載せ、引きずりながら動かした。小さい方の破片も一人が抱えて外で待機していた自動車まで運び、ウォリックシャー州、ケント州を経由して大きな石の破片を野原に隠した。小さい方の石は車に乗せたまま、ミッドランドに住む彼らの友人に預け、彼らは一度列車でスコットランドに戻ることにした。スクーンの石が行方不明になったことを知った当局は、400年ぶりにスコットランドとイングランドの国境を封鎖したという。

 2週間後、ハミルトンと友人たちは2つの破片を回収し、グラスゴーにて石工の頭領でもあったロバート・グレイに頼み、2つに割れた石を一つに合わせてもらった。グレイは真鍮の棒を大小2つに割れてしまった石に差し込んでつなぎ、この石が真正な物であることを示すために石の中に紙切れを封じ込めたという。なお、グレイはその紙片に何を書いたかを誰にも明かすことなく1975年に死去しているため、紙片に何が書かれていたのかは現在まで不明のままとなっている。

 スクーンの石の所在はしばらくわからないままだったが、1951年4月に警察へ匿名の通報があり、スコットランド独立宣言がなされたアーブロース修道院の高祭壇跡で発見された。石は1952年2月にウェストミンスター寺院に返還されている。

 スクーンの石を盗み出した学生たちは、大きな政治問題や民族問題の引き金になりかねない事件だったこともあり、なんと不起訴となった。しかし現地ではスクーンの石がおよそ680年ぶりにスコットランドの地に戻ったことから、4人の学生を英雄視する動きもあったようだ。事実、実行犯の一人であるイアン・ハミルトンは「グラスゴーのパブではいつでもタダでビールが飲めた」と語っている。

 現在、スクーンの石はスコットランドのエディンバラ城に安置されており、新たな国王の戴冠を迎えた時などに一時的にウェストミンスター寺院に貸し出されることになっている。来年の2024年にはパースに新たな博物館が建造されるため、今後はそちらの博物館に収蔵される予定になっている。

参考:「Wikipedia」ほか

文=勝木孝幸(ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

ミステリーニュースステーションATLAS編集部員
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