広島の砂から見つかった「地球に存在しないはずの金属」—— 原爆の火球が残した80年越しの記録

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画像は「Daily Mail」より

 広島湾に面した砂浜の砂を、一粒ずつ電子顕微鏡にかけていた研究チームが、地球上のどこにも記録のない金属を見つけ出した。

 1945年8月6日の朝、一発の原子爆弾が広島の街を焼き、10万人を超える命を奪った。その中心で生まれた7000℃を超える火球の内部では、建物も土もガラスも、そこにあったすべてが蒸発し、混じり合った金属蒸気の雲になったとみられている。

 その雲が急速に冷やされた瞬間、原子が「本来あり得ない並び方」のまま凍りついた——そう考えるほかない構造の合金が、80年以上を経て砂の中から回収された。研究成果は科学誌『Science Advances』に報告されている。あの朝に何が起きたかを、物質そのものが記録していたことになる。

「ヒロシマイト」の内部に潜んでいた、数マイクロメートルの粒

 調査したのは、イタリア・フィレンツェ大学の研究チーム。分析対象は、広島湾の砂浜から採取された34個の微小なガラス質粒子だ。

 これらは「ヒロシマイト(hiroshimaite)」と呼ばれる。原爆の熱で溶けた建材や土壌が固まってできたガラス状の物質で、爆心地周辺の環境そのものが一度液体になった痕跡といえる。呼称は、発見と分析にあたった研究者たち自身が名づけたものだ。

 チームは高性能の電子顕微鏡、化学組成分析、単結晶X線回折を組み合わせ、あの日の爆発で生じた異常な物質が残っていないかを一粒ずつ確かめていった。

 そして、わずか数マイクロメートルの金属粒が一つだけ、他とまったく違う挙動を示した。化学組成も結晶構造も、既知のどの合金にも当てはまらない。原子配列を数千種類の物質データと照合しても、一致するものはなかった。核の火球の中で生まれた未知の金属である可能性が高い——それが結論だった。

ステンレス鋼に似た組成、しかし「起こらないはず」の原子配列

 見つかった合金に含まれていたのは、鉄、クロム、ニッケル、マンガン、モリブデン、ケイ素、アルミニウム。元素の顔ぶれと比率だけを見れば、身の回りにあるステンレス鋼に近い。

 だが、決定的に違うのが原子の並び方だった。これらの元素がこの比率で混ざった金属では、本来こうした構造は生じないとされている。材料科学の常識から外れた配列のまま、物質として固定されていたのだ。

 研究チームは、その成り立ちをこう考えている。爆発で生じた混合金属蒸気が凝縮して微細な液滴になり、膨張する火球の中で急激に熱を奪われ、原子が並び直す時間を与えられないまま一瞬で固まった——いわゆる超高速急冷である。安定な形に落ち着く暇もなく、途中の姿のまま凍結させられたことになる。

 チームは、この合金が材料科学における未知の「スイートスポット」に位置しているとの見方を示す。極端な高温と極端な冷却速度が重なったときにだけ現れる領域があり、そこに入り込んだ物質だというわけだ。

 見つかったのは34個の粒子のうち、たった一粒だった。

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画像は「Daily Mail」より

トリニティ実験の「不可能な結晶」に続く発見

 核爆発が地球上に存在しない物質を作り出したとする報告は、これが初めてではない。

 同じ研究チームによる別の研究では、人類最初の核実験であるニューメキシコ州のトリニティ実験で、通常ではあり得ないとされる結晶構造が生まれていたことが指摘されている。火球が巻き上げた実験塔の残骸と砂漠の砂が融合して降り注ぎ、ガラス質の物質「トリニタイト」が生まれた。この鉱物からも、地球上では形成されないはずの結晶構造が確認されている。

 人間が作り出した極限環境が、自然界に存在しない物質を生み出しうる——研究チームはそう結論づけ、生成の仕組みが解明されれば、より強く軽く熱に強い材料を作る手がかりになる可能性を指摘している。

砂粒に残された、その朝の記録

 砂の中から見つかった数マイクロメートルの粒は、材料科学の新しい扉であると同時に、その朝に何が起きたかを物質として記録した証拠でもある。

 人類が自らの手で、地球上には存在しなかった条件を作り出した。それは科学の探究心にとっては未踏の領域であり、同時に、多くの命が失われた出来事の残り火でもある。その両方の意味を抱えたまま、砂粒は80年以上、静かにそこにあり続けている。

参考:Daily MailScience Advances、ほか

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