全てに既視感を覚える奇病「デジャベク」とは? 毎日が前日の繰り返しになった男性の症例
日々規則正しい生活を送るのを好む人は少なくないが、毎日がまったく同じだと嘆く人物がいる。テレビを点ければ昨日と同じニュースが流れているというのだ――。
毎日が前日の繰り返しになる“デジャベク”
初めて訪れたはずの場所なのに前にも来たことがあるような気がしたり、前を歩いている女性がいかにもハンドタオルを落としそうな人だと思った矢先に本当に落としたりすることなど、デジャブ(既視感)と呼ばれる不思議な現象は科学的研究の対象になることもある。
デジャブの多くは“おやっ?”と思う一瞬の体験で、その後はあまり気にすることもなく水に流してしまうものだが、驚くべきことに一瞬で終わるどころか一日中、昨日とまったく同じことが起きていると訴える人々がいる。
直面するあらゆる出来事を過去の経験として認識する類まれな現象は「デジャベク(deja vecu)」と呼ばれ、昨日と寸分違わぬ1日が今日もまた繰り返されるのである。
オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の医師チームが今年5月に「BMJ Case Reports」で発表した研究では「毎日が同じ出来事の繰り返しに感じる」という珍しい症例であるデジャベクに悩まされている80歳の男性のケースを報告している。
男性の家族はそれは気のせいだと何度となく説得しているのだが、男性は一貫して自分が一種のデジャブのループを経験していると頑なに主張するのだった。
「毎日が前日の繰り返しです」と男性は研究者に語っている。
「どこに行っても、同じ人が道端にいて、後ろには同じ車がいて、同じ人が乗っています。同じ人が同じ服を着て、同じカバンを持ち、同じことを言って車から降りる……何も新しいことはありません」(患者の男性)
事例研究によると、男性はある時点で、自宅のテレビが同じニュースを繰り返し放送しているので見かねてテレビ局に電話をしたのである。また別の機会では、電子書籍で本をめくってもずっと同じページが表示されるだけで、電子書籍リーダーが壊れていると確信して修理を依頼したのだ。
もちろんテレビ局は男性の苦情を聞き入れず、デバイスのメーカーは機器に何の不具合もないと説明した。どちらも男性の思い過ごしなのだが、家族をはじめ周囲がどんなに説得しても男性の訴えが変わることはなかった。
2つの話を1つに混同する傾向がある
研究チームはデジャベクの原因をまだ明確に突き止めてはいないのだが、短期記憶を長期記憶に変換するのに役立つ脳の一部である海馬の機能不全と関係があるとの疑いもあるようだ。
苦しんでいる当人は自分に何が起こっているのか理解できないことが多く、自分の認識を正当化するために妄想のような誤った信念を抱くことがあるという。
患者の男性の認知機能を検査した結果、記憶力や言語記憶に困難があり、2つの話を1つに混同する傾向があることが判明した。また認知機能検査と脳のスキャンデータからアルツハイマー病の兆候も確認された。
デジャベクはまれな症状ではあるものの、これまでにも医学文献では何度か報告されている。研究チームによれば「既視感の病理学的形態」と呼ばれた最初の症例報告の1つが1896年に発表されているということだ。
デジャベクは必ずしもアルツハイマー病や他の形態の認知症と関連しているわけではないが、不幸にも発症すると患者が普通の生活を送ることが難しくなる。初期のケースで報告されている脳性マラリアを患った兵士は自分の人生をすでに一度体験していると確信しており、新聞は古いニュースを掲載していて、兄の結婚式は演出された再現イベントだと信じていたことが記録に残されている。
医師らは患者の80歳の男性を免疫療法で治療しようとしたが、残念ながら改善の兆しは見られなかった。男性は支援を受けずに孤独な生活を続け、症状の発症から4年後には進行性のアルツハイマー病の兆候が見られると共にデジャベクの症状は依然として続いているという。
それでも一人暮らしで自立した生活を送っているということだが、主観的にではあれまったく同じ毎日がずっと続く生活とはどのようなものなのだろうか。あまりにも奇妙な症状からの回復への手がかりが見つかることを願いたい。
参考:「Oddity Central」「IFL Science」ほか
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