人類最初の臓器売買「歯買取ビジネス」の恐怖! 死体、奴隷、貧者から歯を抜き取り…(亜留間次郎)

【薬理凶室の怪人で医師免許持ちの超天才・亜留間次郎の世界征服のための科学】

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 最近、ブックオフが銀歯買い取りを始めたニュースが話題になりましたが、こうした歯の金属は「dental scrap」と呼ばれ古くから買い取り対象になっていました。

 日本では基本的に歯医者が回収してリサイクルされていますが、貴金属買い取り業者は昔から普通に扱っていました。

 ブックオフが始めたのは単純に儲かりそうな気配がしてきたので試しに参入してみた程度のことではないでしょうか?

 銀歯の買い取りに儲かりそうな気配がしてきたのには理由があります。

 すでに欧米では多くの業者が参入しており、ネットを見ても高く買い取る広告が山ほど出ています。

 一般に銀歯と呼ばれている物は歯科用金銀パラジウム合金と呼ばれている金:12%、パラジウム:20%、銀:約50%、銅:約10%からなる合金です。

 近年はパラジウムの価格高騰が激しく、現在の銀歯買い取りは金銀よりパラジウム目当てと言えます。

 たとえば6月中のパラジウム相場の推移を見ても最高値買取価格7298円~最安値買取価格6754円の値段がついています。

 鉱山で掘るより市中から買い集めた方が儲かるレアメタルは歴史上何度も登場しています。

 過去には銀の値段が高騰したせいで銀食器の買い取りが盛んに行われ、中世時代から残っていた美術品としての価値が微妙に低い銀食器が潰されました。

 現在は日本でもコンポジットレジン充填と呼ばれる白いプラスチック素材の詰め物が保険適用になり昔のように銀歯や金歯を使うことが急激に減っています。

 金歯銀歯が取れたり虫歯などで合わなくなったら白い詰め物に変わるので銀歯が余るようになりました。

 現代の市中でパラジウムを大量に含んでいる物体は何かと言えば銀歯だっただけです。パラジウムの高騰は一年ぐらいのウチに人間の銀歯を急速にコンポジットレジンに置き換える圧力になると思います。

 パラジウムが急激に高騰している理由は産出量の四割がロシアなので、ウクライナ戦争のせいでロシアからの入手が難しくなったせいです。

 パラジウムは自動車の排気ガス規制のために必要な触媒としてプラチナと並ぶ重要なレアメタルです。

 そして、最近の水素エネルギーの活用の研究では水素を製造するときの触媒として重要な金属です。

 値段の高さと資源のレアさから実用化は進んでいませんが、パラジウムは自分の体積の935倍もの水素を吸蔵する理想的な水素吸蔵合金であり、

 リチウム電池が高性能電池としてもてはやされリチウムの資源確保が問題になっているように水素自動車が一般化すれば需要が跳ね上がる可能性もあります。

 どちらにしても市場から銀歯が消えるのは時間の問題なので、長くは続かないと思います。
実際に過去に行われた歯の売買も今では消えています。

欧米の歯買い取りの歴史

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1787年にトーマス・ローランドソンが描いた風刺画(画像は「Getty Images」より)

 人間の歯を売買するのは人類初の臓器売買でした。

 現代では人工的に作られた義歯が発達したおかげで人間の歯が売買されることはなくなりましたが、200年以上前には欧米で大規模な歯の買い取り市場が動いていました。

 たとえば、1787年にイギリスの風刺画家トマス・ローランドソンは貧乏人の歯が抜かれ金持ちに移植される姿を描いた風刺画を描いています。

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ゴヤの絵(画像は「Wikimedia Commons」より)

 こうした歯の売買が行われていたのは入れ歯が人間の歯から作られていたからで、貧しい人間が自分の歯を売り金持ちが入れ歯にしていた世界初の臓器売買の始まりです。

 画家のフランシスコ・デ・ゴヤも1798年ぐらいの時期に絞首刑になった死体から歯を盗む女の絵を描いています。

 この年代のスペインでは他人の歯を盗む泥棒が一般的な存在であり、そうした歯を買い取る業者が普通にいた事を示しています。

 ゴヤが死体から歯を盗む女性を書いたのと近い年代の1789年にアメリカ大統領に就任したジョージ・ワシントンは総入れ歯でした。

 ジョージ・ワシントンの入れ歯は複数の黒人奴隷の歯を買い集めて作られたといわれています。

 ジョージ・ワシントンが奴隷の歯を買っていた問題はアメリカではタブーになっていて自伝などには木製の入れ歯だったと書かれています。

 1ドル紙幣に書かれている有名な肖像画を始め、ワシントン大統領の顔は総入れ歯の特徴的な口元をしています。

 ワシントン大統領の入れ歯は何個も作られたらしく一つは現存して博物館に展示されています。

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ワシントンの歯(画像は「Wikimedia Commons」より)

 貧しい人間が歯を売る話は古い文学作品にもよく出てきます。

 フランス文学「レ・ミゼラブル」の中ではコゼットの母親であるファンティーヌが前歯2本を40フランで売っています。

 一緒に売った髪の毛が10フランなので当時の価値基準から見て人間の前歯はかなり高く売れる物でした。

 世界的に綺麗な白い歯を求める風潮は中世時代から強くあり、欧米富裕層の間では現代で言うホワイトニング歯磨きが行われていました。

 現代のような歯磨き粉がないから荒い研磨剤でこするので歯の表面が傷だらけになって削られていくため、歯をよく磨く富裕層ほど虫歯になって歯が無くなる矛盾が起こりました。

 象牙などから作った入れ歯は表面にエナメル質が無いために光沢が悪く、すぐに汚くなるので駄目でした。とにかく見た目が大事なのです。

 このため、外から見える前歯周辺だけ人間の歯を象牙の土台に移植した入れ歯が作られました。

 実際に現存する入れ歯を見てみると象牙の部分は茶色くなって人間の歯を埋め込んだ前歯の部分だけ白く残っています。

 レ・ミゼラブルの中でファンティーヌの前歯が高く売れたのはそうした事情によるものらしいです。

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象牙の土台に人間の前歯を埋め込んだ入れ歯(画像は「British Dental Association Museum」より)

 歯の提供者は成人した若くて虫歯の無い健康な人間が理想的です。

 中高年や老人はダメなので墓荒らしをしても年老いて死んだ死体には商品価値がありません。

 レ・ミゼラブルの作中年になっている1815年~1833年の欧米には理想的な健康で丈夫な若者の歯が沢山落ちている場所がありました。

 戦場です。

 1815年に欧州で起こったワーテルローの戦いでは全軍合わせて9万人以上ともいわれる軍人の死体から歯が抜かれ入れ歯になりました。

 それから欧州では屈強な兵士の歯から作られた入れ歯、ワーテルローの歯(Waterloo Teeth)は良質な入れ歯の代名詞になりました。

 ワーテルローの歯はそれから半世紀経っても売られていたのですが1861~1865年に起こったアメリカ南北戦争でも戦場で大量の歯が集められてロンドン市場へ送られた歯がワーテルローの歯として売られていました。

 歯の売買は戦場に落ちている死体から臓器を抜き取って売る人類最初の臓器売買だったのです。

日本の入れ歯

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1900年代初頭の日本の木製入れ歯(画像は「Getty Images」より)

 一時期は巨大産業になっていた人類初の臓器売買は1880年代には急速に無くなりました。

 歯の売買が無くなったのはサミュエル・ストックトン・ホワイト博士が1844年にアメリカでセラミック製の入れ歯を大量生産するSSホワイトテクノロジー社が設立され数十年後には世界規模に成長して入れ歯が人工物に置き換わったからです。

 この会社は現在も営業している世界最大手の歯科関連メーカーで、現在も普通に歯医者で使われている道具を製造販売しています。

 技術革新によって人間の歯に商品価値がなくなったことが決定的でした。

 日本で言えば、明治初頭に人間の歯の売買が終焉を迎えたことになります。

 欧米人は戦争が無いときはアフリカ植民地やインドにまで歯を買い付けに行きましたが、鎖国のおかげで世界の歴史の中で人間の歯を売買しなかった国は日本だけです。

 日本だけは鎌倉時代に仏師が入れ歯を作るようになり、1538年没の尼僧が使っていた入れ歯が現存しています。

 室町時代には技術が確立して江戸時代を超えて明治初期まで木製の入れ歯が使われていました。

 なぜか世界中で日本の入れ歯だけが異常なほど発達して人道的にも優しかったのですが、日本でだけ発達したのは入れ歯の素材に適したツゲの木が日本固有種で他の国に生えていないせいかもしれません。

 そのせいで外国の時代物を見ても歯を売る意味がよくわからなくなっていますが、これも平和ボケなんでしょうか?

参考:「British Dental Association Museum」「Wikipedia」「SS White Technologies

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文=亜留間次郎

薬理凶室の怪人アルマジロ男。人間の皮を被った血統書付きアルマジロ。守備範囲は医学から工学、ノーマルからアブノーマルまで幅広く、アリエナイ理科ノ大事典など、くられ氏と共に薬理凶室関連の共著多数。単著に『アリエナイ理科式世界征服マニュアル』(三才ブックス)がある。よくわからないケダモノなのでよくわからないネタで攻めていきます。

公式サイト http://asai-laboratory.sakura.ne.jp/
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