アフリカの岩に描かれた「ユニコーン」の謎! ブッシュマン神話の一角獣“雨の子”とは?

 アフリカの砂漠の民は伝説の一角獣を信仰していた――。アフリカ南部の古代のロックアートに“ユニコーン”が描かれていたのだ。

アフリカ南部のユニコーン

 神話上の生き物であるユニコーン(一角獣)であるが、記録に残されている限りにおいては主にヨーロッパの文化に伝わる存在だ。

 たとえばローマの自然史家、大プリニウスは早くも西暦1世紀にユニコーンについて言及している。ユニコーンは中世のキリスト教とケルトの両方の信仰に登場し、スコットランドの国獣でもある。ヨーロッパ文化におけるユニコーンは植民地化とともに世界中に広がった経緯がある。

 アフリカ南部では19世紀終盤から20世紀半ばまでの植民地時代にヨーロッパのユニコーンが先住民たちの目に留まったようだ。

 ヨーロッパが近代を迎え自然科学の時代になると、ユニコーンはリアリティを失い徐々にマイナーな存在になっていった。しかしアフリカの未開の荒野には頭に1本の角を持つ本物の動物がまだ存在しているのではないかと考えた人もいたようだ。つまりユニコーンはUMA(※)ではないかというのだ。

(※) UMA(ユーマ、Unindentified Mysterious Animal)とは未確認生物を意味する和製英語。未確認生物とは何世紀にもわたって語り継がれてきた物語や伝説に登場したり、また、今日でも目撃例があるが実在が確認されていない生物のことだとされている。物語、伝説、噂話などで語られる生物であるため、科学的な対象ではなく、“オカルト”に分類される。英語圏で、未確認生物はCryptid (クリプティッド)と呼ばれ、これを研究する学問はCryptozoology(クリプトズーロジー、暗号生物学)と呼ばれるのが一般的。

 UMAとしてのユニコーンを調査した有名なケースはイギリスの探検家で作家、さらに政治家であったジョン・バロー卿(1764-1848)によって行われた。 彼は南アフリカ旅行中に出会った入植者や現地の人々から「ユニコーン」にまつわる話やの噂を聞いてまわったのだ。

 それらの噂の1つは、この地域の先住民であるサン人(ブッシュマン)が描いたロックアート(岩絵)にユニコーンが描かれているということだ。バローはUMAとしてのユニコーンを発見することはできなかったが、現在の東ケープ州の山中でユニコーンの岩絵を見つけたのである。

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「Yahoo! News」の記事より

 しかし多くの人は彼の主張に懐疑的だった。彼が見つけたロックアートはサン人の岩絵というよりはむしろヨーロッパの版画に似ていたのだ批評家らはユニコーンの岩絵はおそらく南アフリカのオリックスを真横からの眺めたものか、またはサイからインスピレーションを得たものだと主張している。

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「The Conversation」の記事より

“雨の生き物”たち

 南アフリカのウィットウォータースランド大学でロックアートを研究しているデイビット・ウィテルソン氏は、ユニコーンの岩絵を考えるうえで先住民の信仰に着目している。

 南アフリカの教師、ドロテア・ブリーク氏は岩に描かれた一角獣はおそらくサン人の神話に登場する“雨の生き物”ではないかと示唆しているという。

“雨の生き物”はサン人の儀式、神話、芸術に頻繁に登場する生物で、彼らは四本足の生き物から蛇までさまざまな形態をとり、その中には一角獣の形態もあるという。哀しいことにこの“雨の生き物”たちは雨乞いの儀式の生贄とされて殺された。

 ウィテルソン氏によればサン人にによって語られた物語の1つでは、“水の子”または“雨の生き物”の幼体は1本の角を持っているという。

 サン人の間では思春期の少女はむやみに外出してはいけないしきたりがあるというのだが、ある少女はルールを破って池に行き、池で泳いでいる“水の子”を捕まえて焼いて食べた。これに味をしめた少女は再び“水の子”を捕まえようと試み何匹も捕まえたのだが、最後に捕まえた“水の子”の頭には1本の角が生えていたという。この角の生えた“水の子”が成長するとユニコーンになることが示唆されているのだ。

“ハイブリッド”化したユニコーン

 サン人が岩に描いたユニコーンがヨーロッパの影響を受けている可能性は高い。

 植民地時代、先住民はやって来たヨーロッパ人の家紋、バッジ、ボタン、あるいは物語を通してヨーロッパのユニコーンのイメージに触れていた。記録されている例の1つでは、岬の先住民がイギリス王室の紋章を見て、そこにあるユニコーンに反応して見解を述べたという。

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スコットランド王家の紋章 画像は「Wikipedia」より

 それによれば先住民たちはユニコーンを“神”と解釈したということだが、おそらく本物の神のような地位にあるものではなく、神話的でフィクショナルな性質の“神”と見なしていたと考えられるということだ。

 そしてこの外国のユニコーンのイメージが徐々に地元のユニコーンのイメージに影響を与えて混ざり合った可能性があるという。ヨーロッパの植民地時代に描かれた岩絵のユニコーンの中には、角がエランド(イランド)に代表されるアフリカに生息するアンテロープ(レイヨウ)のように後ろ向きではなく、ヨーロッパのユニコーンのように真上や前に向いているものがあるという。これはヨーロッパのユニコーンの影響かもしれないのだ。

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「The Conversation」の記事より

 岩絵に描かれた一角の動物は単なるサイやレイヨウではなく、また影響は受けていたとしてもヨーロッパの神話に登場する生き物でもない。

 先住民族の信仰はヨーロッパのユニコーンと南アフリカの“ユニコーン”の驚くべき類似性がまったくの偶然であることを説明しているが、植民地時代の南アフリカで外国の神話と地元の信仰が混ざり合い“ハイブリッド”化したユニークなユニコーンが誕生したということなのかもしれない。

参考:「The Conversation」ほか

文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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