猫顔の未確認生物「タッツェルブルム」アルプスに潜む“毒を吐く伝説の怪物”の謎

ヨーロッパ・アルプス山脈。その険しい山々に、古くから奇妙な生き物の存在が語り継がれてきた。猫のような頭に、蛇やトカゲのような体を持つとされるその生物の名は「タッツェルブルム」。時にシュトレンヴルム、あるいはベルクシュトゥツとも呼ばれるこの未確認生物(UMA)は、果たして伝説上の存在なのか、それとも未知なる現実なのか?
多様な呼び名とアルプスの伝説
タッツェルブルム(Tatzelwurm)という名前は、ドイツ語で「爪のある虫(Wurmは爬虫類なども含む古い言葉)」といった意味合いを持つとされる。主にドイツのバイエルン地方で使われてきた呼称だが、現在ではオーストリアなどでも広く知られている。
しかし、地域によって呼び名は異なる。スイスのベルンアルプス周辺では「シュトレンヴルム(Stollenwurm)」、すなわち「穴(トンネル)の虫」あるいは「短い足を持つ蛇」と呼ばれてきた。オーストリアでは古くは「ベルクシュトゥツ(Bergstutz)」、「山の切り株」を意味する名で呼ばれていたという。フランスアルプスにも「アラッサス(Arassas)」と呼ばれる類似の伝説生物が存在する。このように、アルプス山脈の広範囲な地域で、タッツェルブルム、あるいはそれに類する存在の伝承が確認されているのだ。

猫頭?トカゲ? 謎に満ちたその姿
タッツェルブルムの最も有名なイメージは、「猫のような頭部を持ち、蛇のような胴体を持つ」というものだろう。しかし、目撃情報や伝承における姿は実に多様だ。
一般的には、ずんぐりとした蛇、あるいは扁平なトカゲのような姿で描写されることが多い。体長は目撃例によって様々で、約30cmほどの小さなものから、1.8メートルを超えるものまで報告されている。日本の伝説上の生き物「ツチノコ」のような存在、と表現されることもある。
足については、鉤爪(かぎづめ)を持つとされ、その数は2本、4本、6本、あるいは多数あるなど伝承によって異なる。時には毛深く、イノシシのような剛毛が背中に生えていた、という記録さえある。スイス中部の伝承では、白と黒の2種類がおり、白色種は頭に小さな王冠を戴いているとも言われる。
毒の息と奇妙な鳴き声 – 恐るべき生態
タッツェルブルムは、しばしば危険な生物として語られる。特にオーストリアやバイエルン地方の伝承では、強力な毒の息を吐くとされ、後年には人間にとって致死的なレベルだと誇張されるようにもなった。スイスのシュトレンヴルムも有毒だと信じられており、実際に17世紀の記録には、遭遇者がその息を浴びて頭痛とめまいに襲われたという記述もある。
また、金切り声や口笛のような音、あるいは蛇のような「シャー」という音を発するとも言われている。1779年の記録では、ハンス・フックスという男性が2匹のタッツェルブルムに遭遇し、恐怖のあまり逃げ帰る途中で心臓発作を起こして亡くなったが、死ぬ前に家族にその恐ろしい姿を伝えたという逸話も残っている。

「ショイヒツァーの竜」- 古文書に記された遭遇記録
タッツェルブルムに関する古い記録として注目されるのが、17世紀のスイスで収集された「竜」の目撃談だ。これらは後に「ショイヒツァーの竜」とも呼ばれるようになり、その中には明らかにタッツェルブルムの特徴を持つものが含まれている。
例えば、文字通り「猫頭の蛇」として図解されている記録がある。目撃者によれば体長は約2メートルあり、胴体は黒から灰色にかけた色だったという。近隣住民は家畜の乳が何者かに吸われる被害に悩まされていたが、この怪物が退治された後に被害が収まったとされている。また、猫のような頭を持ち、四足で、背中にはイノシシのような剛毛が生えた「竜」の記録も存在する。
他にも、巨大な頭と前脚だけを持つ竜(カモール山の竜)に遭遇し、その息を浴びて体調を崩したという記録など、爬虫類的な外見を持つ「竜」の目撃談も多い。これらの古い記録が、タッツェルブルム伝説の形成に影響を与えた可能性は高い。

正体はイタチか、未知の生物か – 考察と現代への影響
果たしてタッツェルブルムの正体は何なのか? 19世紀の自然科学者ダラ・トーレは、「ショイヒツァーの竜」を含め、これらはすべて蛇やトカゲの誤認、あるいは既に絶滅した未知の爬虫類の名残だと考察した。
一方で、爬虫類ではなく哺乳類、特にイタチ科の動物(ケナガイタチ、テン、カワウソなど)の見間違いではないか、という説も古くから存在する。作家のヨハン・ルドルフ・ウィースなどはこの説を唱えた。高山地帯では馴染みの薄いこれらの動物が、タッツェルブルムとして誤認された可能性も否定できない。
1934年には、スイスの写真家が撮影したとされるタッツェルブルムの写真が新聞に掲載されたが、その信憑性は低いとされている。現代においては、その存在を証明する確たる証拠は見つかっていない。しかし、日本の国立科学博物館で2001年に開催された特別展では、イタリアで発見されたジュラ紀の無脊椎動物の生痕化石(生物が活動した跡の化石)が、「ジュラシック・タッツェルブルム」と名付けられて展示されたこともあった。
猫のような頭を持つ蛇、あるいはトカゲのような姿の未確認生物「タッツェルブルム」。その存在は科学的には証明されていないものの、アルプスの険しい山々に息づく伝説として、今なお人々の好奇心と想像力を刺激し続けている。もしかしたら、深い森の奥や、岩陰に、その奇妙な姿が隠れているのかもしれない…。
参考:
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2024.10.02 20:00心霊猫顔の未確認生物「タッツェルブルム」アルプスに潜む“毒を吐く伝説の怪物”の謎のページです。ヘビ、猫、ツチノコ、未確認生物、アルプスなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで