首切りの困難さを医学的に検証! 「残酷さはルッキズム」ギロチンは人道的な斬首法と判明=亜留間次郎
斬首後の意識
斬首された後も意識があるのか斬首刑の歴史の中で長年語られてきたテーマです。
実際にフランスでは「ギロチンで斬首された後に意識が続くかぎり瞬きする」と言って斬首された人がいましたが、動きは確認できなかったらしいです。
人間の場合どうなるのかわかりませんが、近代になって実験動物のラットを使った斬首研究が行われています。
医学研究の道具に「実験動物用断頭器」というラットの首を切断する専用道具があります。
実験ではラットに脳波計を付けて斬首される10秒前から120秒後までの脳波を測定しています。
この図は0秒が斬首した瞬間です、斬首した瞬間に脳波が急激に動いて10秒たたずに平坦になっています。
この図の赤い線は麻酔をかけて意識を失わせてから斬首した時の脳波です。普通に意識がある状態で斬首した青い線と比較されています。
素人目には赤い脳波の方が大きく動いているので活発に見えますが、これは人間でも麻酔で完全に意識を消失すると起こるバーストサプレッション(振幅が⼤きく周波数の⾼い脳波と平坦な脳波が交互に現れる)と呼ばれる脳波の形です。
青い脳波は基礎律動が見られる正常脳波です。
斬首前に意識があってもなくても斬首後の脳波に大きな違いはなく、斬首後に意識が動いている兆候は読み取れません。
斬首された人間は3~4秒以内に意識を失い、ストレスや痛みを認識できなくなると考えて間違いなさそうなので、論文では斬首刑は非人道的ではないことを示唆していると結論づけています。
斬首後に意識があるのか、こうした実験が近年になって動物実験で科学的に検証されるようになったのは事情があります。
現在日本を初め世界的に実験動物の斬首は残酷だといわれるようになり、それを行うためには倫理委員会の承認が必要なため面倒になりました。
なぜラットを斬首する専用の道具があるのかというと海馬組織の研究などでラットの脳味噌を取り出すために必要だからです。
脳味噌の取り出し方もマニュアル化されています。
斬首が人道的な安楽死であることを科学的に証明しないと、医学研究に支障が出るようになったのです。
斬首よりも頻度が多い一般的な方法が頚椎脱臼で、実験動物のラットでは一般的な方法の1つです。
完全にマニュアル化されていてラットの首の骨を脱臼させることで苦痛を感じるまもなく即死させます。
この方法は現代日本の法律で決まっている死刑で行われる絞首刑と同じ死に方です。
死刑は落下を利用して頚椎脱臼させる事で即死させる縊首(いし)と呼ばれる方法で窒息死させる方法ではありません。
動物実験の結果と比較してみると日本の死刑は人道的に苦しませない安楽死だといえます。
前から首を切る方法
北海道で起こった事件では首が切断されていましたが、人間を含めた哺乳類全般は前から筋肉と腱を切断しながら切ると首の骨を破壊しなくても間にある軟骨組織に刃物が入るので簡単に分離できます。
柔らかい部分を切除してから首をひねれば骨は簡単に分離できるので刃こぼれを気にする必要もなく全力で振り回す必要もありません。
殺される人間の苦痛を考えなければ首を切断するのは前から切るのが簡単です。実際にISISに殺された映像が公表された人も前から切られています。
この手順は家畜の解体になれた遊牧民なら当然の手順です。首の切断は医師よりも猟師の方が手慣れているでしょう。
家畜を屠殺する時は首の前から切る方法が一般的で、イスラム教の戒律で定めれている屠殺法も首を前から切ります。
これは頸動脈を切断して血抜きをする必要があるからです。
家畜は首の後ろから大きな刃物で斬首してしまうと血抜きができないのでダメです。
ここで問題になるのは現代では家畜を屠殺する時に苦痛を与えないようにすることが厳しく求められています。
その結果として人道的な頸動脈の切り方が研究されました。
頸動脈を切る方法だと子牛を使った実験では1分ちょっとは痛くて苦しいようです。
刃物が鋭利なほど苦痛が少ないので、刃物をちゃんと研げばOKという結論になっています。
動物実験の結果をまとめて人間に適用して考えてみると、後ろから斬首して首の骨を破壊する方法が最も苦痛を感じる時間が短いと考えられます。
ギロチンによる斬首は動物実験のデータから見ても人道的でした。
最大の問題はフランス革命でギロチンが発明されたように、人間を含めた哺乳類の首は後ろから切ろうとすると首の骨に当たります、この骨が硬くて素人だと簡単には切れません。
日本では斬首するときに頭蓋骨と第1頚椎の間のわずか5ミリの一直線の空間を切るなんて話がありますが、これは完全なフィクションです。江戸時代に御様御用で“首切り浅右衛門”と呼ばれた山田浅右衛門を主人公に解剖学の知識を歴史小説に接続した表題作とされている『項の貌』に書かれた完全な創作です。
山田浅右衛門は実在の事物ですが、骨の隙間を切る話は小説家で外科医の渡辺淳一先生の創作で史実ではありません。
そもそも、頭蓋骨と第1頚椎の間を後ろから切ると顎の骨に後ろから当たります。よけいに大きな骨に当たってしまうためダメです。
たぶん、後ろから切って首の骨に当たらない場所を探すと頭蓋骨と第1頚椎の間しか無かっただけだと思います。
逆に頭蓋骨と第1頚椎の間を通り抜けた刃が顎の骨に当たっても骨ごと切り裂いてしまうと斬首された頭は鼻の下あたりで切断されてしまいます。
これは作劇の都合から首の骨に当たらないように切ったことにするための無理な設定だと思われます。
斬首の歴史は古く、石器時代には人間の首を切断して持ち帰る風習が世界的に存在していたといわれています。
実際に大昔に首を切断された死体の骨から斬首の状況を調査した研究は世界中に数多くあります。
日本で発見された2人の斬首死体の遺骨調査では第4頸椎が切断され第3頸椎にも傷がありました。
1回で切れずに複数回刃物を振り下ろした痕跡のある骨も見つかっています。
実際の斬首は首の骨を大きな刃物で粉砕していたようで、一回では切れずに複数回振り下ろされていたようです。
骨を切断して斬首した場合、どのような刃物が使われたのか再現を試みた研究もあります。
紀元前3世紀頃と思われる中国の安徽省魯安市から出てきた遺骨の調査では青銅器文明時代の刃物と推定されています。
首以外にも体に複数の傷があり、戦争で負けて敵に首を切られたと推定されています。
首の骨には5回分の傷があり一撃で斬首できなかったようで傷の形状からどんな刃物だったのか推定されていますが、槍や刀ではなく斧だったようです。
人間の首は後ろからどこを切っても骨に当たらない場所がありません。
現実の斬首は第三頸椎か第四頸椎を破壊しています。
人間の首の骨を刀で切断する難易度は非常に高く達人でなければ不可能であることは古代から斬首された人の遺骨調査からも判明しています。
実際に中国でも欧州でも斬首刑は斧で行われている事例も多く、剣で人間の首を切断する難易度は極めて高そうです。
しかし、剣の腕を鍛えなくても高エネルギーの道具を使えば簡単に確実に実現できました。
それがギロチンだったわけです。
結局の所、残酷かどうかは処刑される人間の主観ではなく、見物している第三者が残酷だと感じるかどうかになるみたいです。
残酷さなんて見た目が全てのルッキズムなんです。
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