人間と機械が接続され…2040年代までに「マインドコントロールデバイス」が一般的になるかもしれない

 人間の脳とデバイスが直結する日は近いのか――。専門家によれば2040年までには思考でスマホを操作できるようになるという。

■マインドコントロールデバイスが2040年代までに一般的化

 イーロン・マスク氏が創業したスタートアップ「Neuralink(ニューラリンク)」が着々と開発を進めているのが脳に埋め込むタイプのデバイス、いわゆるブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)である。

 現在、ブタやサルを使ったBMIのインプラント実験が繰り返されているということだが、人間での実用が問題なくなるレベルに到達するのは近いともいわれている。

 BMIによって人間の脳がパソコンやスマホ、ロボットなどに直接接続されることになる。人間が思考だけでテキストを送信したり、インターネットが使えるようになることで、人間と機械の区別が曖昧になるともいえるだろう。

 ニューサウスウェールズ大学(UNSW)の生体医工学専門家であるモヒト・シブダサニ氏は、BMIを装着して外を歩き回る人物を目撃する日もそう遠くないと語り、BMI技術を利用したマインドコントロールデバイスが2040年代までに一般的になるかもしれないと予測している。

「GreatGameIndia」の記事より

 シブダサニ氏は視覚障害者のための「バイオニック・アイ」や、慢性疼痛および炎症性腸疾患に対処するためのデバイスを開発している。ハンデを持つ人々にとってBMIが果たす役割はきわめて大きいということだ。

 同じくUNSWの博士過程研究者、クレア・ブリッジェズ氏はさらにいくつかの利点について説明している。それは“接続健康技術革新(connected health innovations)”であるというのだ。

 具体的には埋め込み型血糖モニターとセンサー、つまり「スマートブレインウォッチ」によって、医師が患者と接する方法が変わることが予測されている。

 このようなデバイスは、装着している人を継続的にモニターして膨大な量のデータを収集する。それらのビッグデータセットをAIで分析して関連する健康情報を特定し、それを患者の治療を担当する臨床医に送信できるようになるという。

 血液中の炎症マーカーであれ、ホルモン分泌や神経伝達物質の問題であれ、問題を早期に発見し、早期診断を受けることで、より効果的な予防的健康を実現できるということだ。

 BMIは医療と健康、そして障がい者支援にきわめて多大な貢献をもたらすことがほぼ確実に見込まれている。

画像は「Pixabay」より

■BMIやBCIを人々が普通に装着する日

 BMIの実現によって“ユートピア”が近づくことになりそうだが、一部の専門家は手放しでは喜べないリスクを指摘している。

 生物学研究者のクリスティーナ・マーハー氏は障がい者は時としてコンピュータやロボット、AIが犯した間違いを修正するのが難しい場合があることを指摘している。ブレイン・コンピュータ・インターフェイス(BCI)を通じてしかコミュニケーションできない人にとっては、間違いの修正は難しく誤解されるリスクがあり、個人にはどの脳のインパルスをBMIに送信するかを決定する力がないと話す。

 脳データは我々のアイデンティティや精神状態に関して推測できることから、間違いなく我々の最もプライベートなデータであるとマーハー氏は説明する。

 たとえば国防により貢献し最前線で身を守るために、軍の兵士に神経強化装置を装備させるべきなのかどうか、またそれは個人のアイデンティティとプライバシーを危険にさらすことになるのかどうか、そしてデータ保護法、健康法、消費者法、刑法のうち、どの法律が神経系の権利を保障すべきなのか、いくつかクリアにさせなければならない問題があるという。

 しかし技術的な限界もあり、BMIが人類を暗い未来に導く可能性は低いとマーハー氏は指摘する。

 BCIが短いテキストを送信することと、人の意識の流れ全体を解釈することの間には飛躍があり、この飛躍を埋めるにはアルゴリズムをどれだけうまくトレーニングできるかにかかっているという。それにはより多くのデータと計算能力が必要であるとマーハー氏は説明する。

画像は「Pixabay」より

 科学者のアンドリュー・ジャクソン氏は、今のところ社会は何も恐れる必要はないと指摘する。

 新しい記憶を脳に書き込んだり、記憶をハードドライブやクラウドにアップロードできるかもしれないというSF的な考えは今のところはナンセンスであり、懸念するにはまだほど遠いということだ。

 ジャクソン氏は機器と比較して、人間の身体は依然としてはるかに優れており、BMIは正常に機能する神経系を能力を拡張するにはまだ及ばないのだと説明する。つまりBMIはハンティキャップを埋め合わせたり、バイタルデータのモニターや収集に活用されるものであり、一般人の能力の向上にはまだ使うことができないというのである。

 ワイヤレスイヤホンが瞬く間に普及したように、BMIやBCIを人々が普通に装着する日は確かにそう遠くはないのかもしれない。

参考:「GreatGameIndia」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
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