気象兵器か、地震兵器か、それともマインドコントロールか……陰謀論が渦巻く『HAARP』の謎

 数々の“陰謀論”が渦巻いている疑惑の施設の1つであるHAARPについて、いったん整理して検証してみてもよいのだろう。HAARPについて何かわかっているのか。

■なぜHAARPは数々の“陰謀論”を生み出しているのか

 1993年に設立され2005年に正式運用が始まったHAARP(高周波活性オーロラ研究プログラム)には、さまざまな疑問が投げかけられてきた。

 この施設には重大な何かが隠されていると信じる人がいるのはなぜか。そしてHAARPをめぐる主張に真実はあるのだろうか。

 ウェブメディア「Historic Mysteries」によればHAARPの正式な使命は、電離層を調査し、これらの電波の影響下でのその挙動を調査することである。HAARPの科学者たちは、電離層を研究することで、宇宙気象現象、電波伝播、通信システムについての理解を深めたいと考えている。

 HAARPの資金は、米軍 (特に空軍と海軍)、アラスカ州フェアバンクス大学、および国防高等研究計画局 (DARPA)の3つの資金源から提供されている。これらのスポンサーに加え、アラスカという遠隔地と、運営をめぐる秘密が憶測と“陰謀論”を煽っている。

画像は「Wikimedia Commons」より

■専門家「HAARPは軍事兵器として使用されている」

 1996年、アメリカの科学者で気候変動活動家のロザリー・バーテルは、HAARPが軍事兵器として使用されていると人々に警告し始めた。

 この頃、陰謀論者のニック・ベギッチ・ジュニア(元米国下院議員ニック・ベギッチの息子で、元米国上院議員マーク・ベギッチと元アラスカ州上院議員トム・ベギッチの兄弟)が『Angels Don’t Play This HAARP(天使はこのHAARPをプレイしない)』を執筆した。

 その中で同氏は、HAARPを使用すれば地震を引き起こしたり、大気を巨大な虫眼鏡に変えることができると主張し、最近ではHAARPがマインドコントロールに利用されていると主張した。

 バーテルとベギッチの主張は、ベルギーの国会議員マグダ・エボレットの注目を集めた。 彼女はHAARPの潜在的な軍事利用は世界的な懸念であり、欧州議会が介入してその法的、倫理的、環境への影響を調査する必要があると述べた報告書を作成したのだ。

 これによりますます突飛な“陰謀論”の扉が開かれた。ロシアの軍事雑誌はHAARPが「地球の磁極を反転させる可能性のある電子のカスケードを引き起こす」という考えを広めた。

 元ミネソタ州知事でドキュメンタリー制作者のジェシー・ヴェンチュア氏は、政府がこのテクノロジーを利用して天候を操作し、マインドコントロール電波を人々に照射している可能性があると示唆した。 時間が経つにつれて、その主張はますます突飛なものになっていった。

 一部の科学者もこの“陰謀論”に加担した。物理学者のバーナード・イーストランドは、HAARPが彼の特許に基づく技術を利用していると確信しており、それは天候を制御するだけでなく、衛星を破壊することさえできる可能性があると言及している。

 そして長年にわたり一部からは複数の災害がHAARPのせいだとされてきた。大規模な雷雨から大規模停電、さらにはトランス・ワールド航空800便墜落事故に至るまで、すべてはこの施設の仕業だと考えられているのだ。

 湾岸戦争症候群(Gulf War Syndrome)や慢性疲労症候群がHAARPによって引き起こされると信じている者さえおり、つい最近では2023年にトルコとシリアで起きた数万人の命が失われた悲劇的な地震はHAARPが原因だと一部では言われている。

画像は「YouTube」より

■“陰謀論”の間違いを暴く科学者

 やはりHAARPは悪事を企んでいるのだろうか。スタンフォード大学教授のウムラン・イナンは科学系メディア「Popular Science」に対し、それらの“陰謀論”は偽りであると説明した。

 彼は「地球の気象システムを乱すために私たちにできることはまったくありません」と断言している。

 HAARPが実際に何をするのかを説明するのが非常に難しいため、HAARPが非常に多くの“陰謀論”を呼び寄せていると説明する者もいる。科学の知識のない者にとっては、HAARPのすべてが非常に神秘的であるように見える。HAARPが政府資金による他の施設に比べて研究に積極的でないという事実も、この謎の雰囲気をさらに強めている。

画像は「YouTube」より

 2015年、アメリカ政府はよりオープンな態度を示すためにHAARPの見学ツアーを開催し、同年、アラスカ大学フェアバンクス校もこのプロジェクトの単独管理を引き継ぎ、米軍から完全に分離された。これにより“陰謀論”に終止符が打たれ、HAARPがより積極的に研究に取り組むことができるようになることが期待されていた。

 他の多くの“陰謀論”と同様に、結局のところ、HAARPをめぐる主張には信頼できる証拠がまったくない。気象操作、マインドコントロール、地震活動の誘発などの主張は、依然として科学的研究によって実証されていない。HAARPを理解できる科学者たちは、HAARPの主な焦点は電離層研究と無線通信の進歩であり、極端な主張には根拠がないと強調している。

 HAARPは人々を魅了するかもしれないが、その真の目的を理解し、それを中心に広まっている憶測を払拭するには、事実とフィクションを明確に区別することが重要である。

参考:「Historic Mysteries」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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