人間にも冬眠機能はある!?人工冬眠はもはや夢物語ではない!【ヤバめの科学チートマニュアル=久野友萬】

 TOCANAにも寄稿いただいていたサイエンスライター:久野友萬氏の新著『ヤバめの科学チートマニュアル』が2024年1月31日、新紀元社より発売された。まさに“ヤバい”内容が目白押しの一冊だが、今回特別にTOCANA編集部イチオシのテーマを抜粋してお届けする。(TOCANA編集部)

宇宙旅行と人工冬眠

 映画『エイリアン』は主人公たちが人工冬眠のカプセルで目覚めるところから始まる。恒星間の宇宙旅行では必須アイテムと言っていい人工冬眠だが、ようするに何千時間も眠り続けるということだ。そんなことが人間に可能なのだろうか?

 かつて人類は氷河期を生きのびるために冬眠をしていたらしい。

 スペインの「シマ・デ・ロス・ウエソス(骨の穴の意)」洞窟で数十人分の人骨が発見された。骨はおよそ40万年前のもので、ネアンデルタール人の祖先にあたる。

 マドリード大学のフアン・ルイス・アルスアガらが調査したところ、どの骨にも1年に数カ月間、周期的に骨の成長が著しく阻害された異常が見られた。

 同じ洞窟内には洞穴グマという冬眠をするクマの骨も残っており、同様の異常が見られたことから、ネアンデルタール人の祖先は、冬眠していたと考えるのが妥当だ。氷河期の厳冬と乏しい食料で生き延びるため、彼らは洞窟の中で冬眠して春を待ったのだ。

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 それはあくまでネアンデルタール人の話で、現代人は違うのじゃないのか?と思うかもしれないが、なんとロシアでは農民は冬眠(ダジャレじゃなくて)していたという。

 帝政時代のロシアでは、冬の間、貧農は食べるものがほとんどなかった。そのため、彼らには冬の続く半年間、ほとんど食事もせずに一日中寝て過ごす「ロッカ」という習慣があったという。ロッカの間、彼らは暖炉のそばで寝て過ごす。そして1日に1度、起きて水を飲み、保存してあるパンを一口食べて、再び眠った。ロッカは完全な冬眠ではないが、限りなく冬眠に近い。

 あまりに貧乏だと人間は冬眠してしまうのだ。

 

冬眠と睡眠はまったくの別物だった

 現代でもたまに冬眠する人が見つかる。

 2006年10月7日に神戸・六甲山で転落した35才男性が救出された。なんと24日間も飲食をせず、発見された時の体温はわずか22度。一般的に体温が30度以下になると低体温症になる。意識がなくなり、約5分で脳の機能が回復不能、心停止すると言われているが、特に障害も残らなかったらしい。

 本人は事故翌日から記憶がなく、ずっと昏睡状態だった。 

 2011年12月19日から2012年2月17日までの2カ月間、スウェーデンで車ごと雪に埋もれていた45才の男性が救助された。男性は食料がまったくないまま、溶かした雪で命をつないだという。救助された時の体温は31度しかなかった。

 人間にもクマやリスのような冬眠の機能があるらしい。

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 冬眠中の動物は、呼吸をほとんどしない。心拍数は1分間に数回まで低下、体温も下がる。限りなく死んだ状態になり、極限まで代謝を落とすのだ。それにより、数カ月間、食べ物も飲み物も必要がなくなり、ひたすらに眠る。

 冬眠中の生き物では、面白いことが起きる。

 まず放射線に対して異常に耐性が強くなる。冬眠中のリスの皮膚に、わざと発癌性のある物質を塗ってもガンにならないのだそうだ。細菌にも感染しにくいらしい。

 病気の人を冬眠状態にしたら、案外と病気が早く治るのではないか?何カ月も冬眠していた動物が、さっき寝たかのように、さっさと動き出せるのも妙な話だ。入院したことがあればわかるだろう が、1週間寝ていただけで、体が重くて立てなくなる。筋肉が弱っているのだ。

 冬眠中のリスは腸内細菌がタンパク質を作り、クマは筋肉を増やす物質が血液中に生まれるのだという。筋肉が落ちないように、タンパク質を補給する仕組みがあるらしい。

 ずっと寝ていれば、寝たきり老人のように床ずれができそうだが、クマに床ずれは起きない。血栓を作る血小板の生産が通常の55分の1まで減るからだ。また冬眠前に異常に食べるので、中には糖尿病になるクマも出そうだが、糖尿病にはならない。ちゃんと糖尿病の原因になるインスリンの異常を抑え込むタンパク質が作られるのだ。

 冬眠と睡眠はまったく別物だ。冬眠中のクマの血清を人間に打ったら、筋肉量が増えたという研究もある。冬眠の秘密がわかれば、医療が変わるかもしれない。

 

冬眠する神経が発見された!

 手術の際に体温を下げてダメージを小さくする超低体温法は一般に行われているが、体温を下げると血液が固まりにくくなり、出血が止まらなくなる。そこで人工冬眠を使って代謝を下げつつ、体温は下げない技術を理化学研究所・生命機能科学研究センターでは研究中だ。

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 冬眠のスイッチを入れる神経がマウスで見つかったのだ。2020年6月5日、筑波大学の櫻井武教授と理化学研究所の砂川玄四郎らの研究チームは、マウスの脳に休眠誘導神経= Q 神経を発見した。 Q 神経を薬物や超音波で刺激すると、マウスが冬眠状態になるのだそうだ。

 小さい動物は敵に会うと死んだふりをするというが、あれはふりではなく、本当に仮死状態になっている。冬眠と同じなのだという。

 マウスの場合、肉食動物の匂いを嗅ぐと動けなくなる。気を失うのだ。このマウスにとっての恐怖の匂いをチアゾリン類恐怖臭という。

 マウスにチアゾリン類恐怖臭を嗅がせて卒倒したところで、ケージ内の酸素を減らす。酸素を減らしてマウスが普通なら平均11.7分で窒息する状態でも、卒倒中のマウスは平均231.8分も生き延びた。なんと20倍である。

 マウスが冬眠するなら人間も冬眠するだろうというのが研究者の考えだ。人間に Q 神経があれば、人間も冬眠できるのではないか? 白雪姫は毒リンゴを食べて眠りに落ち、ガラスの棺の中で眠り 続けた。果たして人工冬眠に入った人間は、何年も何十年も経って目覚めることができるのだろうか。

CNO=酸化クロザピンという薬物で Q 神経を刺激したマウスは、急激に体温が低下、平熱の37度からほぼ外気温に近い24度まで低下し、冬眠状態に入った 画像引用:筑波大学・理化学研究所「冬眠様状態を誘導する新規神経回路の発見 」(https://www.tsukuba.ac.jp/journal/images/pdf/202006110000-2.pdf)

 

恐怖! ゾンビ犬の実験

 低温状態では臓器の機能が抑制される。2006年にアメリカのサファル蘇生研究所で、14頭の犬から血液をすべて抜き取り、代わりに18度前後のブドウ糖と生理食塩水の溶液を入れるという、ひどい実験が行われた。当たり前だが、血液を抜かれた犬は即死した。

 ところがだ。死んだ犬の体を冷却、3時間後に血液を戻して心臓に電気ショックを与えると14頭のうち10頭の犬が生き返った。障害が出たのは4頭で、臨死体験どころか完全に死んだ犬がよみがえったことから、この実験は「ゾンビ犬の実験」と呼ばれている。人工冬眠は案外とホラーと相性がいいかもしれない。

続きは『ヤバめの科学チートマニュアル』(新紀元社)でご覧ください。

『ヤバめの科学チートマニュアル』(新紀元社) 著者:久野 友萬 定価:本体1,600円(税別)

文=久野友萬

サイエンスライター。1966年生まれ。福岡県出身。
近著『ヤバめの科学チートマニュアル』(新紀元社)

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