防災「言い伝え」MAPを徹底検証!「先祖直伝 10の知恵」鵜呑みにしてはいけない伝承も!

Stefan KellerによるPixabayからの画像

「災害時、このような情報さえあれば、助かった人もいたのではないか?」と思う情報が公開されている。それは、消防庁防災課の「防災に関わる『言い伝え』MAP」というデータ集で、大地震や津波の前兆現象や、避難方法などに関する伝承をまとめたものだ。今回は、それらの中から、極めて減災に有用と思われるものを紹介する。

■「防災に関わる『言い伝え』MAP」とは!?

「防災に関わる『言い伝え』MAP」は、2017年3月に消防庁のWeb上で公開された。同じく消防庁から2007年に発表された資料集「全国災害伝承情報」をもとに、各都道府県の協力を得て全国津々浦々に伝わる災害に関する伝承などを集約し、地域ごとに分類したものだ。

防災「言い伝え」MAPを徹底検証! 絶対に使える「先祖直伝 10の知恵」… 全国民が知るべし!!の画像2
画像は「総務省消防庁 防災に関わる『言い伝え』MAP」より引用

 では、以下に、言い伝えの種類ごとにいくつか紹介していこう。なお、前兆の可能性があるものや、迷信的で根拠が薄いものなどは、筆者自身の研究の経験から判断していく。なお、一部の言い伝えは同マップではなく、元の「全国災害伝承情報」にのみ収められている。

■先祖直伝:地震前に確認された動物たちの異常

1. 「雉(キジ)が鳴く(騒ぐ)と地震が起きる」(岩手県奥州市)
 地震学者の故・力武常次博士が収集した1978年の伊豆大島近海地震(M7.0)では、地震の24分前に、山梨県甲府市でキジ400羽が一斉に鳴くという前兆が確認された。この伝承の説明として、「科学的な根拠はないが、実際の経験則による。雉は、地面に生息することが多く、地面の揺れを敏感に感じとる」とあるが、キジの足にはヘルベスト体という震動に敏感な感覚細胞があり、人体では感じることができない微動を察知していた可能性もある。

2. 「ネズミは大地震の前になると家の中から居なくなる」(宮崎県東臼杵郡)
 ネズミは昔から人間の家屋を棲家としてきたため、たくさんの前兆例が伝えられている。阪神・淡路大震災の前兆報告を集めた『前兆証言1519!』(東京出版)では、獣類の報告のうち実に25%、80件近くの報告があった。民家の天井裏で異常に騒いだり、逆にいなくなって静かになった例などが多い。同書の事例を集計すると、いなくなった事例では地震から1カ月~2週間ほど前のケースが最多、騒いでいた事例では地震の2~3日前のケースが最多だった。動物が集団でいなくなり、別の場所に現れるのは、電磁波などの地震前兆を嫌い遠くへと移動するのではないか。

3. 「やすで虫がたくさん落ちる時は地震あり」(神奈川県三崎地方)
 ヤスデとはムカデのように多くの足を持つ節足動物で、ダンゴムシを長くしたような外見が特徴だ。2016年5月に台湾北東沖でM6.2の地震が発生した時は、1週間前に台湾・彰化県にヤスデの大群が出現していた。震源までの距離は約250kmで、東京から仙台ほど離れているが、前兆だった可能性は一概に否定できないだろう。

4. 「ナマズがさわぐと地震がおこる」(愛知県豊田市)
 ナマズは昔から日本では地震の代名詞とされ、地中の巨大ナマズが怒って地面が揺れた結果だと信じられていた。これは、先人たちが地震の前にナマズが騒ぐ様子を目にして想像した結果かもしれない。1946年の昭和南海地震(M8.1)の2週間前には、高知県の長浜川でナマズの大漁があったが、これは大地震の前によく見られる大漁の好例といえる。大阪大名誉教授の池谷元伺氏(故人)によると、ナマズは水中の電場変化に敏感だという。ウナギはより敏感だが、常に活発に泳いでいるため地震の前に暴れても(人間によって)気付かれにくいようだ。

画像は「Wikipedia」より

5. 「するめが多くとれた時は、地震に気をつけろ」(徳島県宍喰町)
「昭和南海地震のときそうだった」と付記されており、1946年に確認された現象だった。過去の記事で紹介しているが、高知県の中村不二夫氏が昭和南海地震の経験者である古老たちから聞き出した前兆現象をまとめた『南海地震は予知できる』(高知新聞社)でも、前兆例として地震の年にはスルメイカがよく獲れたとある。もともと日本では「イカの大漁があると地震が起きる」と古くから信じられており、長尾年恭・東海大教授も「興味深い現象で、毎日海に出ている漁師の証言なら、信ぴょう性が高いのでは」(読売新聞、2011年5月1日付)と語っている。

■先祖直伝:地震前に確認されたその他の異常

6. 「海の水がにごるのは地震の前触れ」(岐阜県)
「昭和南海地震の前に見られた」とあるが、これも前述の中村不二夫氏が収集した前兆例に含まれている。高知県宇佐町沖で操業するサバ漁船は、船の流れを安定させるための漁具にドロドロしたヘドロのような汚物が付着し、海藻が腐ったような異臭がしたという。

7. 「イワシ雲が出ると地震がおきる」(秋田県鹿角市)
 いわゆる“地震雲を含めた空の異変は、通常の雲との見誤りも多く、長く前兆現象について研究してきた筆者でも判断が難しい。他の前兆現象と併せて判断することが望ましいというのが筆者の結論である。

King of Hearts投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

■先祖直伝:津波前に確認された異常

8. 「地震の後、潮が引いたら高いところへ逃げろ」(岩手県)
 このような異常干潮も、昭和南海地震の前兆を収集した中村不二夫氏によって報告されている。だが、津波襲来の前に必ずしも潮が引くわけではない、という点は要注意だ。

9. 「大きい地震の後に井戸水がひけば、津波が来る」(徳島県)
 同じく中村不二夫氏の前兆例では、高知市の民家において、南海地震の2~3日前から釣瓶で汲めないほど井戸が枯れたという。井戸の水位が低下するケースも報告されている。

■いざ起きてしまったら…!? 3.11以降に有名になった伝承

10. 「津波てんでんこ」(岩手県)
 津波が来たら各自てんでんばらばらに逃げろという意味。共倒れの悲劇を防ぎ、1人でも生存しようという知恵として3.11以降に有名になった。3.11の津波を記録した映像を見ていると、高台に避難しようとする人々が、特に年配の女性などが後ろを何度も振り返りながら歩いていた様子がわかる。家族や知人を気にしていたのかもしれないが、それによって自分自身が犠牲になる可能性もあるのだから、やはり一目散に逃げるのが正しいだろう。同じ岩手県では「津波と聞いたら欲を捨てて逃げろ」という伝承もあるが、津波到達までまだ時間があると思い込み、家であれもこれもと持ち物を準備してはいけない。そうしている間に津波に呑まれてしまうこともあるからだ。

画像はUnsplashMarkus Kammermannによる

■しかし、鵜呑みにしてはいけない伝承も……!

「地震が来たら、便所さ行け」(岩手県普代村)
 住宅診断士の大久保新氏は、「小さなスペースでも柱がしっかり四つ角にあるから、安全だといわれていたのでしょう。しかし、家屋が倒壊した場合は、屋内のどこにいても危険度は同じです」(女性セブン、2012年3月22日号)と語る。このような言い伝えは、鵜呑みにしては問題がある例だ。

「地震の時は、竹やぶに逃げろ」(宮城県亘理町)
 ウェザーニュースが行った減災のための「昔から伝わる知恵や伝承」調査でも、回答者の約10%にあたる人々が同じように回答した。竹やぶでは竹の根が土地を覆い尽くして地面をしっかり守るから地震には強いだろうという発想だが、農林水産省によると、竹の根は浅く、竹やぶ全体が滑るように崩れる土砂災害の事例もあり、必ずしも安全とは限らないという。

■その時、あなたは生き延びることができるか!?

 こうして見てきたように、先人たちの言い伝えは、決して無視してはならないものが多い。ただし、科学的根拠がない伝承もあるため、怪しいと思ったら鵜呑みにせず、関連書籍を読むなど自分なりに確認することをお薦めする。

「防災」というと、日本では食料などの備蓄を真っ先に思い浮かべる人が多いようだが、長年地震を研究してきた筆者は、防災に関係する優先順位を考え直すべきだと考えている。大前提として、やはりその時に命を守ることを最優先に考えるべきなのだ。ところが、日本人の多くは、「自分は災害で死ぬわけがない」と思い込み、津波が発生しても避難しないような、「正常性バイアス」と呼ばれる傾向が強くみられるのだ。昔からの知恵を大いに参考にしつつ、なによりもサバイバルに努めなければならない。

参考:「総務省消防庁 全国災害伝承情報」、「総務省消防庁 防災に関わる『言い伝え』」、「総務省消防庁 添付資料」、「総務省消防庁 防災に関わる『言い伝え』MAP」、「ウェザーニューズ」、ほか

 

※当記事は2019年の記事を再編集して掲載しています。

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文=百瀬直也

超常現象研究家、地震前兆研究家、ライター。25年のソフトウエア開発歴を生かしIT技術やデータ重視の調査研究が得意。
Webサイト:百幸.com
ブログ:『探求三昧』
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Twitter: @noya_momose

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