「USAIDの光と影」閉鎖の背景と広がる陰謀論

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Prime Minister’s Office (GODL-India), GODL-インド, リンクによる

 国際援助の名のもとに、巨額の資金を投じて世界各国の発展を支援してきたUSAID(アメリカ合衆国国際開発庁)。その活動は、災害救援から民主化支援まで幅広い。しかし、裏では「CIAの隠れ蓑」「アメリカの経済支配ツール」「人口削減計画の一環」など、さまざまな陰謀論が囁かれてきた。そして2025年2月、ついにUSAIDはトランプ大統領とイーロン・マスク氏の主導によって閉鎖に追い込まれた。

 これは「無駄な対外援助を削る合理的な決断」なのか、それとも「アメリカの国際的影響力を自ら放棄する愚行」なのか——。

USAIDとは何か?

 USAIDは、1961年にジョン・F・ケネディ大統領によって設立されたアメリカの政府機関である。公式には「世界の安定と繁栄の促進」を目的とし、途上国への経済援助、人道支援、民主化促進を行ってきた。世界60カ国以上に拠点を持ち、数十億ドル規模の資金を投じてきた。

 しかし、その活動は常に「純粋な援助なのか?」という疑問とともにあった。例えば、冷戦期には共産主義の拡大を防ぐために支援が行われ、現在でもアメリカの国益と密接に結びついている。特に、キューバの「ZunZuneo」(反政府運動を煽るためのSNS)プロジェクトや、ウクライナ・ベネズエラでの反政府勢力支援など、援助を装った政治工作と批判されることも少なくない。

なぜトランプ大統領とマスク氏はUSAIDを閉鎖に追い込んだのか?

 2025年2月、トランプ大統領はUSAIDの閉鎖を発表。イーロン・マスク氏が主導する「政府効率化省(DOGE)」と連携し、大幅な削減を実施した。その背景には、以下の3つの要因がある。

1. 政府の無駄遣いと腐敗
 USAIDは巨額の予算を持つが、その資金の流れが不透明であり、特定のメディアや組織へ流れているという疑惑があった。トランプは「USAIDの資金がフェイクニュースメディアを支えている」と主張し、腐敗の象徴として槍玉に挙げた。

2. 政府効率化と歳出削減
 マスク氏が率いるDOGEは、政府の支出を削減することを目的としており、USAIDのような対外援助機関は「コストがかかるだけで成果が不透明」とされた。特に「なぜアメリカ国内の問題を解決せず、外国に資金を流すのか?」という疑問は、トランプ支持層にとって響くテーマだった。

3. アメリカ第一主義と外交政策の転換
 トランプ政権は「アメリカ第一主義」を掲げ、国際機関への資金提供を削減してきた。USAIDの閉鎖はその延長線上にあり、アメリカの外交政策の大きな転換点となる可能性がある。

 この結果、USAIDは事実上の解体となり、職員の97%が解雇された。ただし、議会や国際社会では、閉鎖の正当性をめぐる議論が続いている。

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画像は「pixabay」より

アメリカにおけるUSAIDの陰謀論

 USAIDは、その影響力の大きさから数多くの陰謀論の対象となってきた。特に有名なものが下記の5つの説だ。

1. CIAの隠れ蓑説
 USAIDは表向きは援助機関だが、実際にはCIAと連携してスパイ活動や政権転覆を行っているという説。過去に実際にCIAと協力していた事例もあり、根強く信じられている。

2. 生物兵器開発説
 2022年、ロシア政府が「USAIDがウクライナで秘密の生物兵器研究をしている」と主張し、陰謀論が拡散した。証拠は確認されていないが、類似の説は以前から存在する。

3. メディア買収説
 USAIDの資金がニューヨーク・タイムズやポリティコなどのリベラル系メディアに流れ、偏向報道を助長しているという説。トランプの「USAIDがフェイクニュースメディアを支援している」という主張にもつながった。

4. アメリカの経済支配ツール説
 USAIDの援助は純粋な人道支援ではなく、アメリカ企業が途上国市場を支配するための戦略だとする説。USAIDのプロジェクトでは、アメリカ企業が請負業者になることが多く、最終的に資金が国内に還流しているとの指摘がある。アフリカやアジアでは、USAIDの活動が市場開放とアメリカ企業の進出を容易にするという批判がある。

5. 人口削減計画説
 USAIDが発展途上国にワクチンや医療支援を提供するのは、人口削減を狙っているという説。1990年代、ナイジェリアやインドでのワクチン接種プログラムに「不妊効果がある成分が含まれていた」という未確認情報が拡散した。一部の陰謀論者は、USAIDとビル・ゲイツ財団が途上国の出生率低下を推進していると考えている。

 これらのようにUSAIDに関する陰謀論の多くは過去に提唱されてきたが、いずれも決定的な証拠は提示されていない。

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Image by M G from Pixabay

日本におけるUSAIDの関与と陰謀論

 USAIDは、日本の企業や団体に資金を提供するケースもある。主に発展途上国支援のためだが、以下のような形で日本企業が関与することがある。

開発プロジェクトの請負
国際的な共同研究
NGO・非営利団体への助成金
人道援助・緊急支援

 アメリカでの『USAIDがメディアを買収している』という陰謀論は日本にも波及した。SNS上で『USAIDが日本のメディアに資金を提供し、報道を操作している』という言説が広がり、『USAIDの資金が日本の報道機関を買収している』というリストが拡散されたが、各社とも関与を否定しており、具体的な証拠は確認されていない。

 USAIDの閉鎖は、アメリカの外交戦略における大きな転換点であり、世界に波紋を広げている。対外援助の縮小が、アメリカの国際的影響力を弱めるのか、それとも歳出削減による新たな時代を築くのか。

 陰謀論と事実が入り混じる中、USAIDの本当の役割とは何だったのか。その答えが明らかになるのは、もう少し先の未来かもしれない。

参考:Wikipedia、ほか

文=青山蒼

1987年生まれ。都市伝説マニア。

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