1グラム約9400兆円!?世界で最も高価な物質とは
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地球上で最も高価な物質の価格は、驚異的な62.5兆ドル(約9400兆円)にも達するという。しかし、仮にその金額を用意できたとしても、この物質を1グラムでも手に入れることはほぼ不可能だ。というのも、これは自然界に存在するものではなく、一つ一つの原子を組み立てて作り上げる必要があるからだ。
反物質——宇宙の“影”の物質
この驚異的な価格がつけられているのは、「反物質」と呼ばれる物質である。反物質は、通常の物質とは鏡写しの関係にある。例えば、通常の陽子(プロトン)は正の電荷を持つが、その反物質である「反陽子」は負の電荷を持つ。これらの反粒子が組み合わさることで、反原子や反分子、さらには理論上は反物質だけで構成された惑星や銀河も存在し得る。
反物質が特異なのは、通常の物質と接触すると互いに消滅し、莫大なエネルギーを放出する点にある。この特性は映画『天使と悪魔』などでも描かれたが、現実の科学でも極めて重要な研究対象となっている。
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製造が極めて困難な理由
反物質は自然界ではほとんど存在しないため、人工的に作り出す必要がある。しかし、そのプロセスは非常に困難で、1グラムを得るのに億単位の年月がかかるとさえ言われている。
1999年、NASAの科学者ハロルド・ゲリッシュ氏は、反物質の価格を1グラムあたり62.5兆ドル(約9400兆円)と試算した。その後の研究で、技術的な課題がさらに明らかになり、実際にはこの価格を超える可能性も指摘されている。
欧州原子核研究機構(CERN)の物理学者マイケル・ドーザー教授によると、「CERNで1年間に製造できる反物質をすべて消費しても、コップ一杯の水を沸騰させるエネルギーすら得られない」という。現在、反物質100分の1ナノグラムの価格が1キログラムの金と同程度とされており、これを換算すると1グラムあたり約5240兆ドル(約7860兆円)という天文学的な金額になる。
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反物質の生成と課題
反物質は宇宙のどこでも生まれており、実は私たちの体内でも微量ながら発生している。例えば、カリウムを多く含むバナナは1時間に1個の反電子(陽電子)を放出する。しかし、こうした自然発生する反物質はすぐに周囲の物質と接触して消滅してしまうため、研究には不向きだ。
CERNでは、粒子加速器を用いて反物質を人工的に作り出している。陽子を高速で加速し、イリジウムのブロックに衝突させることで、約100万回に1回の確率で、物質と反物質のペアが生まれる。しかし、この方法には莫大なエネルギーが必要であり、CERNの粒子加速器は研究所全体のエネルギー消費量の90%を占める。
さらに、作り出した反物質は通常の物質と接触すると即座に消滅してしまうため、極低温の磁場によって完全な真空状態で保存する必要がある。現時点での反物質の最長保存記録は単一粒子で405日、反原子でわずか17分である。
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反物質研究の意義
これほどの困難を伴うにもかかわらず、なぜ科学者たちは反物質の研究を続けるのか。その理由は、宇宙の成り立ちを解明する鍵となる可能性があるからだ。
ビッグバンの瞬間、物質と反物質は同じ量だけ生成されたと考えられている。しかし、通常の理論では両者は互いに消滅し合い、現在のように物質だけが残ることは説明できない。この矛盾を解決するためには、何らかの未知の法則が働いた可能性がある。
あるいは、現在観測可能な宇宙は単に物質で満たされているだけで、見えない場所に反物質で構成された宇宙が存在する可能性も否定できない。
反物質の謎を解き明かすことは、宇宙の成り立ちを理解するだけでなく、新たなエネルギー源や未来の推進技術への応用にもつながるかもしれない。今後の研究によって、反物質が持つ未知の可能性が明らかになることを期待したい。
参考:Daily Mail Online、ほか
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