なぜ“世界一臭い”のか?シュールストレミングの強烈な悪臭、その科学的メカニズムと意外な歴史

“世界一臭い食べ物”とは――。信じられない悪臭を放つ発酵した魚の缶詰が今も食べられている。
■“世界一臭い食べ物”とは?
「シュールストレミング」はスウェーデン語で「酸っぱいニシン」を意味するスウェーデンの伝統的な珍味である。軽く塩漬けしたバルト海産ニシンを数カ月間発酵させた缶詰で、世界で最も臭い食べ物の一つとして知られている。
春にスウェーデンとフィンランドの間のバルト海で漁獲されるこのニシンは、卵巣を残したまま頭だけを切り落とされ、その後、薄い塩水(塩分濃度約17%)が入った巨大な樽に詰められて発酵される。通常、特定のバクテリアにとって快適な温暖な環境である15~18度で最大12週間保存される。
この間、バクテリアが繁殖し代謝が活発になるため魚体はガスを吹き出し始め、微生物の活動はきわめて活発になる。この時点で小分けにされて缶に詰められ密閉され、1年間発酵が続けられる。
こうして出来たシュールストレミングの缶を開けると、閉じ込められていたガスが抜けてシューッという音が鳴ってあたりに悪臭が立ち込め、吐き気に襲われる者も少なくない。
その臭いは、腐った卵、刺激臭のあるチーズ、アンモニア、1週間寝かせた脇の下、そして腐った魚が混ざったような臭いにとたえられ、アメリカの作家マーク・カーランスキーは、この臭いを「発酵したサイダーのように泡立ち、パルメザンチーズと古い漁船の船底の水を混ぜ合わせたような臭い」と表現した。

2020年、伊マルケ工科大学の研究チームは、シュールストレミングの科学に関する 包括的な研究を発表している。
低濃度の塩分と酸素濃度の低い環境は、いくつかの細菌種の繁殖を可能にし、これらのバクテリアの多くは乳酸、プロピオン酸、酪酸、硫化水素を生成し、シュールストレミングにピリッとした酸味を加える。またこれらの酸は缶内のpH値を下げ、病気を引き起こす可能性のある病原菌のリスクを低減する。
この軽い塩水漬けによって、食中毒を引き起こすサルモネラ菌、リステリア菌、 ボツリヌス毒素などの細菌を撃退することができ、その見た目に反してきわめて安全な保存食品であることが確かめられている。
シュールストレミングは16世紀、スウェーデン解放戦争とも呼ばれるグスタフ・ヴァーサ王の反乱の最中、塩が不足し、人々が最小限の塩水で済む保存方法を採用せざるを得なかったときに、スウェーデン北部で誕生したといわれている。
エピソードの一つには、塩分不足に悩むスウェーデン人が、この奇妙な保存状態の魚を一樽、フィンランド人に売ったという話がある。すると驚くべきことに、このピリッとした風味が気に入った人もおり、レシピが定着して風土の味覚となったという。ちなみにフィンランドでは「ハパンシラッカ(hapansilakka)」と呼ばれている。
スウェーデン観光局はシュールストレミングを食べる際のアドバイスを行っている。
●缶をキッチンで開けるのは厳禁。基本的に屋外で開けることが前提だが、屋内で開ける場合は水を満たしたバケツなどの中に浸した状態で水中で開けることが推奨されている。
●ニシンの身を水洗いし、内臓を取り出す。バターを塗った薄いパン(トゥンブロード)やブレッド、トルティーヤなどに乗せ、スライスしたアーモンドポテトと刻んだ玉ねぎを添えて包んで食べるとよい。ホームパーティー料理にも適しているとのこと。
ご多聞に漏れず日本にも「くさやの干物」や納豆などの独特な匂いの食べ物があるが、シュールストレミングに興味を持った向きは通販でも売っているので“自己責任”で試してみてもよいのだろう。
参考:「IFLScience」ほか
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