南海トラフ巨大地震はいつ来るのか? ― 歴史と科学が示す「その日」に、私たちはどう備えるべきか

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「南海トラフ巨大地震が30年以内に70~80%の確率で発生する」

 この言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。テレビや新聞で繰り返し報道されるこの数字に、「またか」と少しだけ気持ちが麻痺してしまっている人もいるかもしれません。しかし、これは決して遠い未来の他人事ではなく、私たち、そして私たちの子供たちの世代が、極めて高い確率で直面するであろう、日本の現実なのです。

 この記事では、なぜ南海トラフ巨大地震がこれほどまでに警戒されているのか、その科学的な根拠と歴史的な背景を紐解き、そして最も大切な「もし、その日が来たら、私たちはどうなるのか」「今、何をすべきなのか」について、一緒に真剣に考えていきたいと思います。

そもそも「南海トラフ巨大地震」とは何か?

 まず、基本からお話しさせてください。私たちの足元にある大地は、いくつかの「プレート」と呼ばれる巨大な岩盤に乗っています。日本の南の海上には「フィリピン海プレート」という海のプレートがあり、それが陸側のプレート(ユーラシアプレート)の下に、1年で数cmというゆっくりとしたペースで沈み込んでいます。

 この時、プレート同士が接する境界面(これが「南海トラフ」です)で強い力がかかり、岩盤がぎゅっと押し付けられて固着します。海のプレートは沈み込もうとするのに、陸のプレートはそれに引きずり込まれながらも耐えようとする。そうして、まるで巨大なバネのように、陸側のプレートには少しずつ、しかし確実に「ひずみ」が蓄積されていきます。

そして、そのひずみが限界に達した瞬間、引きずり込まれていた陸側のプレートが、耐えきれずに一気に元に戻ろうと跳ね上がります。この巨大な跳ね上がりが、マグニチュード8~9クラスというとてつもないエネルギーを放出し、大地震と大津波を引き起こすのです。これが、南海トラフ巨大地震のメカニズムです。

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Mw9.1最大規模の南海トラフ巨大地震 想定震源域(地震本部・2013)|Map: Lincun / Area: PekachuCC BY-SA 3.0出典

100~150年周期で繰り返されてきた、歴史からの警告

 このメカニズムは、同じ場所で何度も繰り返されます。だからこそ、南海トラフ沿いでは、歴史上ほぼ100~150年という周期で巨大地震が発生してきました。過去の記録を遡ると、その恐ろしいパターンがはっきりと見えてきます。

  • 1707年 宝永地震 (M8.6): 南海トラフのほぼ全域が一度に動いた、国内最大級の地震。西日本全体が揺れ、その49日後には富士山が大噴火(宝永噴火)しました。

  • 1854年 安政東海・南海地震 (M8.4): 東海地方で巨大地震が起きた、わずか30時間後に、今度は四国沖で巨大地震が発生。2つの地震が連動し、日本中に大きな被害をもたらしました。

  • 1944年・1946年 昭和東南海・南海地震 (M7.9, M8.0): 第二次大戦のさなか、そして戦後間もない日本を襲った2つの巨大地震。前回、この場所で起きた巨大地震がこれです。

そして、この前回の昭和南海地震から、すでに約80年が経過しています。歴史的な周期から見れば、次の巨大地震は「いつ起きてもおかしくない時期」に、私たちは生きているのです。

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気象庁, CC 表示 4.0, リンクによる

科学の目は何を捉えているか?「確率70~80%」の本当の意味

「30年以内に70~80%」という確率は、決して占いや予言ではありません。これは、過去の発生履歴という膨大なデータを統計的に分析し、科学的なモデルに基づいて算出された、極めて重い数字です。(※2023年には計算方法が見直され、専門家の間では「60%~90%程度以上」と、より幅を持たせた表現も使われています)

 もちろん、この確率をもって「何年何月何日に地震が来る」と予知することは、現代の科学でも不可能です。しかし、科学者たちは決して手をこまねいているわけではありません。

 海洋研究開発機構(JAMSTEC)などが設置した海底地震・津波観測網「DONET」は、南海トラフの海底に設置された50箇所以上のセンサーで、プレートの微細な動きを24時間監視しています。これにより、巨大地震の前兆となりうる現象をいち早く捉えようと、必死の努力が続けられています。

 また、気象庁は、南海トラフ沿いで異常な活動が観測された場合に「南海トラフ地震臨時情報」を発表する体制を整えています。これは、「巨大地震の発生可能性が普段より高まっている」ことを知らせる、いわば“イエローカード”のようなものです。この情報が出された時、私たちはより一層の警戒と備えの再確認をしなくてはなりません。

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もし、その日が来たら…想像を絶する被害想定

 では、もし最悪のシナリオで南海トラフ巨大地震が発生したら、私たちの暮らしはどうなってしまうのでしょうか。政府の中央防災会議が公表している被害想定は想像を絶するものです。

  • 死者・行方不明者: 最大で約23万1000人。その多くが、津波によるものと想定されています。

  • 建物の全壊・焼失: 約209万棟。凄まじい揺れと、その後の火災によって多くの家屋が失われます。

  • 津波: 最も恐ろしいのが津波です。地震発生からわずか数分で、太平洋沿岸に巨大な津波が到達します。場所によっては高さ34mに達するとも言われ、その浸水面積は、あの東日本大震災の約1.8倍にも及ぶと想定されています。

  • ライフラインの寸断: 最大で約2930万戸が停電し、約3570万人が断水。電気、水道、ガス、通信といった、私たちの生活に不可欠なインフラが、広範囲で長期間にわたって停止します。

  • 交通網の麻痺: 道路や橋は崩落し、鉄道は不通に。空港や港も津波で機能不全に陥り、多くの地域が孤立する可能性があります。

 これは決して大げさな数字ではありません。私たちが生きる日本で、明日にも起こりうる現実の姿なのです。しかし、一つだけ希望があります。この被害想定は、あくまで「対策をしなかった場合の最悪のシナリオ」だということです。迅速な避難や建物の耐震化など、私たちの備え次第で、被害は大幅に減らすことができると専門家は繰り返し強調しています。

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私たちにできること―「その日」を生き抜くための備え

 では、私たちは具体的に何をすれば良いのでしょうか。公的な支援がすぐには届かない大災害の直後、自分と大切な人の命を守れるのは、自分自身の備えだけです。

  • 家具の固定: まずは家の中の安全確保から。大きな揺れで家具が倒れてくれば、それは命を脅かす凶器になります。タンスや本棚、冷蔵庫などを、壁にしっかりと固定しましょう。

  • 食料・飲料水の備蓄: 最低でも3日分、できれば1週間分の食料と水を備蓄しておきましょう。ライフラインが止まっても、しばらくの間は自力で生活できる備えが必要です。

  • 避難場所と経路の確認: 自宅や職場、学校など、普段いる場所からの避難場所と、そこへ至る複数の安全な経路を、家族全員で確認しておきましょう。特に、津波の浸水想定区域にお住まいの方は、「とにかく早く、少しでも高い場所へ逃げる」という意識を徹底してください。

  • 家族との連絡方法の確認: 災害時には電話が繋がりにくくなります。災害用伝言ダイヤル(171)の使い方や、SNSなど複数の連絡手段を、あらかじめ家族で話し合っておきましょう。
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 南海トラフ巨大地震の発生を私たちは止めることはできません。しかし、その被害を減らすことは間違いなくできます。

「まだ大丈夫だろう」という根拠のない安心感ほど怖いものはありません。歴史と科学が示す警告を真摯に受け止め、今日からできる備えを始めること。それが、「いつか来るその日」を生き抜き、未来を繋ぐために、今の私たちにできる最も大切なことなのです。

参考:
地震本部「南海トラフで発生する地震」
中央防災会議「南海トラフ巨大地震モデル・被害想定手法検討会」
防災情報(内閣府)「南海トラフ地震対策」
J-SHIS 地震ハザードステーション(防災科研)
南海トラフ沿いの地震に対する確率論的津波ハザード評価(防災科研 技術ノート)
ほか

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文=ヨミノ・ユナ

神奈川県在住の主婦ライター。得意ジャンルは都市伝説、オカルト、ネット文化、歴史ミステリー。子育ての傍ら、深夜にネットサーフィンをする中で出会った不思議な話を探求するのが趣味。タイムトラベルやパラレルワールド系のSFが大好物。

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