30万匹が殺処分される一方で… 富裕層は“大金”で「死んだ愛犬」を蘇らせる。ペットクローンが突きつける“命の格差”

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 元NFL選手の愛犬は死んだ前の愛犬のクローンであることが発表されている。一方で富裕なセレブたちがクローン技術を活用することを疑問視する声もあがっているようだ。

■死んだ愛犬のクローンは是か非か?

 愛犬家にとって犬の短い寿命が悲哀であるのは人情として多くの理解が得られるだろう。

 元NFLクォーターバックのトム・ブレイディ氏が先日、愛犬のクローンを作成したと発表したことについて、クローン技術の経済的側面と倫理的側面をめぐる議論が巻き起こっている。

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トム・ブレイディ氏 Barcex投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

 絶滅した狼、ダイアウルフを蘇らせたと主張するコロッサル・バイオサイエンス社は先頃、ペットクローン企業の大手であるバイアジェン社の買収を発表した。ペットのクローンが巨大ビジネスに発展していく準備が整ったのかもしれない。

 この発表に際し、元NFLクォーターバックのトム・ブレイディ氏は、コロッサル・バイオサイエンス社が2023年に亡くなった愛犬ルアのクローンを作成し、現在の愛犬であるジュニーを生み出したことを打ち明けている。

 女優で歌手のバーブラ・ストライサンド氏もまた現在飼っている3匹の犬のうち2匹がクローンであることを明かしているが、ペットのクローンに疑問を呈する声もあがっているようだ。

 クローン犬を作るプロセスは多くの個体の犠牲の上に成り立っている。2005年に韓国の研究者たちが世界初のクローン犬を作った際、成功までに1095個の卵子と122匹の成犬が必要であったことがわかっている。2022年に行われた1000匹のクローン犬を分析した最近の研究によると、クローン犬を作る試みのうち、生きた子犬が生まれたのはわずか2%である。2匹のクローン犬を誕生させるために98匹の代理母犬が無駄な妊娠をさせられていることになる。

 クローン技術自体は有益な活用ができる先進技術であり、たとえば絶滅危惧種であるクロアシイタチのクローンの努力はおおむね成功を収めている。

 1996年、スコットランドの科学者たちは世界初のクローン哺乳類である羊の「ドリー」を世に送り出した。ドリーは世界の注目を集め、その生みの親である発生生物学者、イアン・ウィルムット氏はナイトの称号を授与された。

 しかしこの出来事は同時に、倫理的な議論を次々と生み出すことにもなり、科学メディア「Popular Mechanics」によるとピュー・リサーチ・センターの2017年の世論調査でアメリカ人の大多数は動物のクローン技術に依然として懐疑的であり、ギャラップ社の世論調査によると、 2025年時点でもその傾向は変わっていない。

 ペットのクローンビジネスは今や本格化する勢いを見せており、現状では犬のクローン作成には平均5万ドル(約770万円)の費用がかかるといわれている。当然だがこのサービスを利用できるのは富裕層だけだ。

 一方で飼い主がいなくなった犬や猫が最終的に安楽死させられている現状もある。2024年にはアメリカだけで30万匹以上の犬が安楽死させられ、約300万匹の犬が保護施設に収容されているという。

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 批評家はクローン犬を作るのにかかった費用を、アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)や地元の保護施設への寄付を通して、飼い主のいない犬たちを支援するために使うべきだと主張するかもしれない。

 ペットのクローンが今後ビッグビジネスとして発展していく可能性を孕みつつ、この件についてしばらくは議論は続いていきそうだ。

参考:「Popular Mechanics」ほか

文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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