宇宙には「脳を持たない意識」が満ちているかもしれない —— コペルニクスの逆転発想から生まれた哲学者の衝撃論文

私たちは「考える」という行為が、脳という1.4キログラムほどの肉の塊から生まれると信じて疑わない。だが、その大前提が、地球という辺境に閉じ込められた井の中の蛙の思い込みだったとしたら——。
いま米国の哲学者たちが、意識は人間のような脳や肉体をまったく必要としないかもしれないという、めまいのするような論考を世に問うている。彼らが武器にしたのは、かつて地球を宇宙の中心の座から引きずり下ろした、あの「コペルニクスの発想」だった。
「意識のコペルニクス原理」という挑戦状
この主張を打ち出したのは、カリフォルニア大学リバーサイド校で哲学を教えるエリック・シュビッツゲーベル氏と、同校の元大学院生で現在はリスボン大学に籍を置くジェレミー・ポーバー氏だ。2人は「意識とは何か」という定義には深入りせず、別の角度から斬り込んだ。意識は「たまたま地球で進化した特定の生物学」に縛りつけられている必要があるのか、という問いである。
ここで2人が持ち出すのが、歴史上もっとも有名な「謙虚さの教訓」だ。かつて人類は地球が宇宙の中心にあると信じていたが、コペルニクスはそれを覆し、地球を数ある惑星のひとつへと格下げした。2人は、この発想を認知の領域へと拡張する。意識や知性が人間に似た生き物だけの特権だと考えるのは、地球を特別扱いした古い思い込みと同じ「地球中心主義」にすぎない、というわけだ。
コップが水を入れるように、意識も「容れ物を選ばない」?
では、なぜ意識が脳以外でも成立しうるのか。2人が鍵とするのは「基質の柔軟性(substrate flexibility)」という考え方だ。
身近な例で言えばコップである。水を蓄える機能は、ガラス製だろうとプラスチック製だろうと変わらない。重要なのは素材ではなく「水を保持できる形をしているか」という構造のほうだ。意識もこれと同じく、特定の物質に宿る魔法ではなく、ある種の情報処理の「かたち」さえ整えば、まったく異なる物理的な仕組みの上でも立ち上がりうるのではないか——。この見方が正しければ、脳という器官もDNAという設計図も意識の必須条件ではなくなり、私たちが想像もできない物質の上で何かが「考えている」可能性が開けてくる。
1兆の銀河と1000の文明——確率が突きつける問い
抽象的な思考実験に聞こえるかもしれないが、2人はここに宇宙の途方もないスケールを掛け合わせる。
観測可能な宇宙には、およそ1兆個もの銀河が存在するとされる。さらに宇宙の歴史全体を通じて、控えめに見積もっても少なくとも1000の高度な文明が生まれてきた可能性があるという。これだけ膨大な生命の系譜が、そのすべて地球とまったく同じ生化学を採用していたとしたら、それこそありえないほどの偶然ではないか、と2人は論じる。裏を返せば、宇宙のどこかには地球型の生物学とは似ても似つかない「異形の意識」が、すでに存在しているか、かつて存在した公算が高い。人類が探すべきは、人間に似た顔や手足を持つ「宇宙人」だけではないのかもしれない。
「シリコンは意識を持てるか」——著者同士が割れた論点
興味深いことに、この論考の核心部分では2人の見解が一致していない。焦点は、人工知能のように半導体(シリコン)の上で動く存在が意識を持ちうるか、という問題だ。
ポーバー氏は慎重だ。基質が柔軟だからといってあらゆる素材が意識の容れ物として合格するわけではなく、シリコンはその条件を満たさない可能性があると釘を刺す。一方のシュビッツゲーベル氏はより踏み込み、いったん「意識に人間の生物学は不要だ」という前提を受け入れたなら、シリコンだけを素材という理由で門前払いするのは筋が通らない、と反論する。意識の謎は、それを最も真剣に考える者同士でさえ簡単には合意できないほど深いのだ。
私たちは「考える宇宙」の中で眠っているのか
脳も持たず、私たちには見分けることすらできない何かが、銀河のかなたで——あるいは、もっと身近な場所で——静かに思考している。シュビッツゲーベル氏らの論考は、その可能性を真正面から突きつける。
もちろんこれは実験で証明された事実ではなく、哲学の射程から放たれた問いかけにすぎない。意識が本当に基質を選ばないのか、それとも地球の生命だけに許された特権なのか、決着はまだ見えない。だが、かつて「地球は宇宙の中心ではない」という一言が世界観を揺さぶったように、「意識は人間の専売特許ではない」という発想もまた、私たちが宇宙を見る目を静かに塗り替えていくのかもしれない。
次に夜空を見上げるとき、その暗闇の向こうからこちらを見つめ返している「何か」がいないと、誰が言い切れるだろうか。
参考:ScienceAlert、ほか
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