「火星人が攻めてきた」とアメリカが信じた夜… ラジオドラマ『宇宙戦争』放送から88年、語り継がれた「全米パニック」の真相

ニュージャージー州の農場に巨大な金属の円筒が落下し、中から灰色の生き物が這い出してきた――。ラジオから流れたこの「臨時ニュース」を聞き、本気で火星人の侵略が始まったと思い込んだアメリカ人がいた。
オーソン・ウェルズが演出したラジオドラマ『宇宙戦争』の放送から、2026年10月30日でちょうど88年。「全米がパニックに陥った」と語り継がれてきたこの事件だが、残された記録をたどると、伝説とは少し違う姿が浮かび上がる。
楽団の演奏を切り裂いた「グローバーズ・ミルの円筒」
1938年10月30日、日曜の夜8時。CBSで放送されたのは、当時23歳のウェルズ率いるマーキュリー劇場のハロウィーン特番だった。原作は1898年に発表されたH・G・ウェルズの小説で、舞台をイギリス南部から現代のアメリカ、ニュージャージー州の小さな集落グローバーズ・ミルに移していた。
最大の仕掛けは、ドラマを報道番組の形式で進めたことだ。ホテルからの楽団演奏が「火星で謎の爆発を観測」という速報でたびたび中断され、やがて現地の記者が農場に落ちた円筒の様子を伝え始める。蓋が回り出し、怪物が姿を現し、熱線で群衆が焼き払われた瞬間、中継はぷつりと途絶える。
記者役の俳優は、1937年のヒンデンブルク号爆発事故の実況を研究し、本物の惨事を目撃した声を再現したという。内務長官の声明場面には、ルーズベルト大統領を思わせる語り口が使われた。
番組の冒頭ではフィクションだと明言されていた。しかし、裏番組の人気バラエティから途中でチャンネルを替えた人々は、その説明を聞き逃していた。ミュンヘン協定をめぐる危機の直後で、戦争の速報に耳が慣れていた時期でもあり、外国軍の攻撃だと受け取った人もいたとされる。

電話2,000件の混乱と、聴取世帯「約2%」という数字
混乱が実際に起きたことは、公文書が裏付けている。ニュージャージー州トレントン市の行政責任者ポール・モートン氏は翌31日、連邦通信委員会(FCC)に書簡を送り、約2時間に約2000件の電話が殺到して警察の通信が麻痺したと訴えた。家族の安否を問う電話もあったという。
同州コールドウェルでは、礼拝中の教会に男性が駆け込んで巨大な隕石の落下を告げ、信者たちが祈りを捧げたと当時報じられた。翌朝、ニューヨーク・タイムズは騒動を一面で伝えている。
ただし、「何百万人もが家を捨てて逃げ出した」という定番の逸話には疑問が残る。放送当夜に格付け会社C・E・フーパーが行った電話調査では、番組を聴いていた世帯は約2%にすぎず、その多くもドラマだと理解していた。
プリンストン大学のハドリー・キャントリル氏は1940年の研究で数百万人が聴いたと推計したが、のちに調査手法が疑問視されている。米国立公文書館によれば、FCCに届いた書簡の約40%はむしろ放送を擁護する内容だった。新興のラジオを警戒した新聞業界が騒ぎを大きく報じた、という見方もある。

人々はなぜ火星人の襲来を受け入れたのか
それでも、一部の人々が火星人の侵略を信じかけたことは事実だ。その下地には、数十年にわたる火星人幻想があった。19世紀にスキアパレッリが火星表面の筋模様を観測し、天文学者パーシヴァル・ローウェルは、それを干上がる星に水を配る知的文明の「運河」だと唱えた。
運河説は1938年の時点ですでに科学的な批判を受けていたが、知的な火星人のイメージは大衆文化に深く根付いていた。そこへ実在の地名とプロの報道口調、そして映像のないラジオが重なり、聴き手は自分の頭の中に侵略の光景を描いてしまった。
グローバーズ・ミルには1988年に記念碑が建てられた。騒動で全米に名を知られたウェルズは、3年後に『市民ケーン』を世に送り出す。
あの夜、グローバーズ・ミルに円筒は落ちていない。それでも、赤い星の向こうに誰かがいるという想像は、ラジオの声だけで人々を本気で震わせた。火星探査機が地表を走る現在も、空から「誰か」がやって来る日を、心のどこかで待っている人は少なくないはずだ。
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2024.10.02 20:00心霊「火星人が攻めてきた」とアメリカが信じた夜… ラジオドラマ『宇宙戦争』放送から88年、語り継がれた「全米パニック」の真相のページです。宇宙戦争、パニック、火星人、H.G.ウェルズなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで