【深読み民俗学】「姥捨て山」伝説に隠された、予言と残酷風習とは?

■寒村の口減らしという歴史も折り重なる「姥捨て山」

 川中島に残る古寺の記録などを丹念に調べて出てきたこの地域の黒い歴史として、もともと「寒村」であったことから、「口減らし」という風習もあったことは間違いないと思われる。口減らしとは、貧しく食べるものがないので、弱いものや働き手でないものから順番に殺してゆくというものだ。この地方では、子供が幼いうちに病気などで死んでしまうために、子供を口減らしにするということは、ほとんどなかったようだ。一方、老人を山に捨てる「姥捨て山」の風習は実際にあったらしい。先にあげた冠着山には、山頂の近くやその向こうの山に連なるところに、小さな石碑などが散見されるという。これらは、姥捨て山に遺棄された、老人たちの墓標なのだろうか。

 川中島の人々は、自分たちの悲しい「姥捨て山」の風習になぞらえ、武田と上杉の話を語り、そして、自分たちの愛する祖父や祖母を捨てなくてもいい世の中が来るようにと、どちらかの大名を応援していた。そのような善政となったのは、江戸時代となり、武田の遺臣ともいえる真田信幸が海津城の大名となってからと思われる。
姥捨て山伝説で、「老人も知恵があり粗末にできぬことを知った殿様は、お触れを撤回し、老人を大切にするようになった」というのは、まさに真田が収めるようになってからのことを指しているといえよう。

 ちなみに、姥捨て山伝説の中では、「老人に攻め滅ぼされる殿様」や「老人の知恵で負かされる殿様」というような話も現地には存在していた。「殿様の知恵で隣国の大名が老人を助けにやってきて、殿様が滅ぼされる」というような荒唐無稽なストーリーもあったというから驚きである。このように、姥捨て山伝説は、ほのぼのとした話の中に、悲しい現実、領国争いと寒村の口減らしという二つの歴史が折り重なった物語、童話なのだ。
(宇田川敬介)

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