“胡散臭い”カウンセリング治療、3分診療… 「心の治療の現場」はどうなっている?

■もがいているのは患者だけではない「カウンセリング」の現状 

 戦後、アメリカから「カウンセリング」が輸入されて約65年。心理学者・故河合隼雄氏の「箱庭療法」、精神科医・中井久夫氏の「絵画療法」に代表されるような、患者側の内面にじっくりと向き合うような診察はもう行われていないのだろうか? 

 …しかし、心の病の急増に追い付いていない現状を見れば仕方がないのかもしれない。医療機関に受診する精神疾患の患者320万人(2011年度・厚生労働省の推計による)、一方で、精神科医の人数は1万4000人(厚生労働省の2010年度医師・歯科医師・薬剤師調査)。人口10万人あたりの精神科医の人数は全国平均で約10人と、受診者に見合うだけの医師やカウンセラーが存在する状況とはいいがたい。そして、さらに心の病を持つ人々が急増中だ。大企業の社員約1600万人が加入する健康保険組合だけでも、心の病の受診数が2009年から2011年度までの3年間で2割増えたほどだ。

本書の取材にとりかかる前は、医師やカウンセラーはいったい何をしているのかと思わないではなかったが、現実はあまりにも厳しい。とくに臨床心理士の待遇の低さを考えると、彼らの個人的な努力に期待するのはもはや限界だろう。箱庭療法のように、一人あたり4、50分はかかる心理療法を行うのは、病院の精神科やメンタルクリニックを受診することへの抵抗感が少なくなって患者数が増えている状況では、かなりむずかしいと言わざるをえない」(本書より)

ある調査では、信頼できる医師に出会うまでは5年以上かかるという結果になったほどだ。

「私自身、生まれて初めて心療内科を受診してからもう20年近くなるだろうか。自分の異変を自覚してから10年余りと考えるとこの調査結果には得心がいく。長い長い道のりだった」(本書より)

 そう、実は、著者の葉月氏本人もなんらかの精神的な病を自覚していたのだと告白している。

「私はずいぶん前から、自分がなんらかの精神的な病を抱えていることを自覚していた。ときどき景色が止まって見える。睡魔が襲う。重いときには、テレビのお笑い番組で笑えず、毎朝毎晩読んでいた新聞が読めなくなる。(略)後頭部に錘(おもり)でも入っているのかと思うほど頭が重くなり、刺激に瞬時に反応できない。物事の判断力が鈍り、考えがまとまらない。わけもなく涙がこぼれる。このままでは死ぬしかないと思い、首をつろうとしたこともあった(略)2012年の夏頃から、再び身体のあちこちに異変が現れた。婦人科系の疾患に加え、原因不明の発疹、頭痛、胃痛、関節痛……に苦しんだ。あらゆる身体疾患の治療を終えて最終的に精神科を受診したのは2013年に入ってからである」(本書より)

 葉月氏は「話をよく聞いてくれる」と病院口コミサイトで評判の街の小さなクリニックで、簡単なテストを含む問診票と数回の診察を経て、双極性障害Ⅱ型と診断された。

 双極性障害とは、以前は「躁うつ病」といわれたもので、うつ状態と躁状態を繰り返す精神疾患である。重い躁状態が繰り返し生じるのがⅠ型で、軽い躁状態が繰り返されるのがⅡ型だ。葉月氏は、「軽躁は他者からは性格と思われることが多く、本人も病気だという認識をもちにくい。このため精神科を受診するのは、本人が苦しいうつ状態のときが多く、うつ病と誤診されることが多い」と述べている。

 DSMのうつ病チェックリストでも、即刻うつ病とされかねない症状だ。だが、誤診で処方された薬で情緒不安定になり自殺の危険性が高まるおそれがあるのだ。

「飛び込みで受診したメンタルクリニックで信頼できる医師にめぐり会えたのは幸運だったかもしれない」という葉月氏。

 事実上、信頼できる医師に出会うまで20年かかったことになる。医療や社会的なサポートの充実が急がれる。

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