生命をプリントアウトする? - 人類の宇宙進出のカギを握る「生物デジタル変換装置」
ステルツナ―氏によると、人間の遺伝子情報を記録させたバクテリアを他の惑星に送り込み、現地で遺伝子情報を集積して人間を組み立て直すことができれば、人間の肉体が実際に宇宙旅行をしなくとも他の惑星への“殖民”ができるのだという。
「我々人類が新たな植民地を開拓するのに、もはや宇宙飛行士は必要ないんです。バクテリアがありさえすれば…」と、ステルツナー氏は続けている。さらにステルツナー氏は、このアイディアを最初に言い出したのはHMS(ハーバードメディカルスクール)の著名な遺伝子学者、ゲイリー・ルーキン教授であることを明かしている。
この会議に遡ること2カ月前、3月13日に行われたHMS主催のシンポジウムの中でルーキン教授は、宇宙空間を旅するよりも目的地で我々自身を“プリントアウト”する道を探したほうがよさそうだと主張し、そうなれば逆に地球外生命体を地球上で育てることも可能になるかもしれないという壮大な展望を語っていたのだ。この話に感動したステルツナー氏は直接、ルーキン教授からさらに詳しい話を聞いたということだ。
■“生体”3Dプリンター開発がカギ
「このアイディアは現在のところ、まったく推測の域を出ない仮説だけれども、でもよく考えてみてください…。このアイディアは人類に光速以上で移動しろとも言わないし、ワームホールを発生させるための莫大なエネルギーも必要としていないのです」とステルツナー氏は結んでいる。
このルーキン教授とステルツナー氏の“B案”もまた確かに現在では推測の域を出ない説であるものの、着実に研究と開発が進められている分野でもある。アメリカの生物学者のクレイグ・べンター氏は「生物デジタル変換装置」を開発中である。これは生物のDNA情報をデジタルファイルに変換する装置である。さらにデジタルファイルから生命を再生することも可能で、まさにこの“B案”のカギを握る「生体プリンター」とでも呼べそうな装置なのだ。
つい少し前まで夢の技術と思われてきた3Dプリンターだが、いったん民生製品になるや瞬く間に普及しているのは驚くべきことだ。確かにこのペースで技術革新が進めば「生体プリンター」の開発もそう遠い先のことではないのかもしれない。
いずれにしても、現在の我々にとっては人類の宇宙進出や移住は、まだまだ現実味を伴わない壮大なスケールの話題であるが、慌しい生活の最中にもし夜空を眺める機会が得られたときには、こんな話題についてボンヤリ想像を巡らせてみるのも気分転換を兼ねた実に有益な頭の体操になりそうだ。
(文=仲田しんじ)
参考:「Popular Science」、「Motherboard」、「Phys.org」ほか
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