「台北 國立故宮博物院」展の謎 ― なぜ、中国の“とびきり”の秘宝が台湾にあるのか?

――エカキで作家・マンガ家、旅人でもある小暮満寿雄が世界のアートのコネタ・裏話をお届けする!

 6月下旬より、上野の東京国立博物館にて、特別展「台北 國立故宮博物院-神品至宝-」が開催されている。

 門外不出と言われた「白菜」と「肉形石」が日本にやってくるとあって、毎日大賑わいの国立博物館。しかし、開催前にモメごとがあったことはご存じだろうか?

■台湾問題と「台北 國立故宮博物院」展

 故宮博物院の正式名称は「台北 國立故宮博物院」。だがしかし、日本で行われるこの展覧会のポスターに「國立=国立」という文字はなかった。それに対し、台湾が抗議。訂正されない場合は、展覧会の中止も辞さないという声明が発表されたのだ。

 これは、日本のマスコミ各社が日頃、中国からの反発を避けるために、台湾を独立国として認めていない立場を取っていることが要因の1つとして挙げられる。日本政府も公式には台湾を独立国家と認めておらず、教科書にも「中国の一部」と記載されている。

 だが、台湾側の立場からすれば、これは到底受け入れられることではない。第一、「台北 國立故宮博物院」は固有名詞であり、そこから「國立」を抜くというのは、単純に誤植にあたるといえるだろう。台湾の馬英九総統が強い姿勢で不快感を示すのもわかる。

 さて、政治的な話は他の方に譲るとして、たしかに台湾の町を歩けば漢字の看板が立ち並び、一見、中国と変わりない。違うのは、中国の文字が簡略化された漢字なのに比べ、台湾のそれは昔日本でも使われていた旧字体の漢字であることだろうか(例・学→學)。

 それでは、中国が主張しているように、台湾は中国であるか? と言えば、もちろんそんなことはない。

 では、どうして台湾の故宮に古代中国から清朝までの文物があるのだろうか? もともと中国大陸にあった美術品、文物はどうやって台湾まで渡っていったのだろう。


■なぜ、台湾の故宮に中国の歴史的美術品があるのか?

 その昔、台湾は先住民族が暮らしている小さな島だった。危険なジャングルと原住民、疫病などが巣食い、いわば「化外(けがい)の地」だったため、皇帝たちはこの土地を一顧だにしなかった。

 そのため、この時代(15~16世紀)は、「フォルモサ」と呼ばれるオランダの植民地となっていた。17世紀初頭、清朝の時代になってようやく漢民族や満州族がなだれ込んできた。つまりこの時点で、それより前の中国、宋時代などの文物が台湾にあったはずはないということだ。

 もともと、故宮は「かつての宮殿」を意味する言葉だ。現在北京にある故宮博物院は、昔は「紫禁城」と呼ばれており、「故宮」というのは「紫禁城」を指す言葉だったのだ。そして「台北 國立故宮博物院」に収蔵されている文物は、みな北京の紫禁城跡から持ち込まれたものだったのだ。

 そう、「台北 國立故宮博物院」は台湾の歴史とまったく関係ない、中国大陸の収蔵品ばかりなのが特徴なのだ。それも飛び切りの品ばかり集められている。それは一体なぜだろうか?

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