“ひ弱なサル”の近親交配が人類を生んだ?科学者「障がいや奇形こそ進化に重要な役割」

■障がいを持ったメンバーと共存して同情心や利他心が育まれる

 この論文『Complexity, Compassion and Self-Organisation: Human Evolution and the Vulnerable Ape Hypothesis』を執筆した英・ヨーク大学とニューカッスル大学の2人の研究者は、遺伝的な身体障がいが、初期の人類を社会的で協力的な存在にしたと確信している。

 研究によれば、我々の祖先の“ひ弱なサル”は小さなグループで共同生活を送っており、他の類人猿から孤立していたため遺伝進化論的に停滞し、近親交配も多く繰り返され、障がい児や奇形児を産む確率が高かったという。現在の我々の身体的特徴である弱い顎・体毛の薄さ・弱い腕・木に登る能力に欠けたまっすぐな足などは、この頃に多発した身体障がいや奇形の名残りであるというのだ。

 身体的特徴のみならず、障がいを持ったメンバーと共存していくことで同情心や利他心が育まれ、さらに社会的な存在となることで知的な環境適応能力を高めていったのだ。こうして“ひ弱なサル”は苛酷な生存競争のなかで“適者”になっていったのである。むしろその脆弱性を逆に利用して、他の動物にはない行動や思考の柔軟性を獲得したともいえるのだ。

 そして今回の研究で最も重要なポイントは、障がいや奇形は種の退廃ではなく、進化へ向けた可能性であるという新たな視点が加わることになったことだ。そして2人の研究者は、人類の進化の歴史は書き直される必要があると主張している。

 奇しくも前回、イスラム教文化圏の近親婚(いとこ婚)の弊害を取り上げた記事を掲載した。確かに、現在の医学では近親婚により先天性異常の発生率は高まるとされているが、話を人類の進化という壮大な観点からみれば、これもまた一理ある自然の摂理ということになるのだろうか。かといって近親婚が積極的に肯定されるということにはならないだろうが、時にはこのような遠くはなれた広大な視点から、我々人類を眺めてみることも必要なのかもしれない。
(文=仲田しんじ)

参考:「Daily Mail」ほか

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