国際暗黒プロデューサー康芳夫が語る! SMクラブ「家畜人ヤプー」に集ったド変態な有名人!
【国際暗黒プロデューサー康芳夫 インタビューシリーズ 第1回/全6回】
5月末日、新宿二丁目のとあるバーで、小さなパーティが行なわれた。ただのパーティと言うには異様なほどヤマッ気のある参加者たちで溢れ、夜が更けるにつれ、バーレスクのショウが行なわれたその不思議な祝宴の中央には、異様なオーラを纏った白髪の男がいた。
入り口に掲げられているのは「家畜人ヤプークラブ ZERO」の文字。沼正三作である世紀の同名小説のタイトルを冠した、そのパーティの主催者は、“伝説のプロデューサー”こと康芳夫によるものだった。
康芳夫と聞けば今の40代を超えるものは知らぬもののいない怪人プロモーターである。1937年、東京生まれ。東京大学を卒業。その在学中から“赤い呼び屋”と呼ばれたプロモーター、神彰氏の元でプロデュース業に携わり、ある意味モラルを完全に無視した、知的好奇心最優先ともいえる暴力的な仕掛けで、日本中を混乱と興奮の渦に巻き込んだ。しかし、華々しい“世紀の呼び屋”としての活動は1970年代後半までといったところ。それから30年以上を過ぎた今、突如として活動を開始したのだという。
しかし、現在は怪しいものが怪しいまま存在することが許されない、デジタルかつクリーンな社会となっている。
そのような中で筆者も人間の限界を拡大しうる怪しい人間専任で活動を続けている端くれだけに、21世紀に蘇った昭和の奇人の動向は気になって仕方がなかった。
そういうわけで、パーティとは別日に改めて康芳夫のロングインタビューをセッティングした。
■王貞治の所有ビルでSMクラブ
――この間行なわれたパーティはどのような経緯で開催されたんでしょうか?
「もう40年も前になりますが、新宿御苑のあたりで『家畜人ヤプークラブ』というSMクラブをやっていました。まだ東京にSMクラブなんてものがあまりない時代に先駆けてやっていたんです。今回はそれを復活させようと始めた、第一歩ですよ。当時は王(貞治)くんの所有しているビルでやっていたんだけど、あまりに流行ったんで“康さんやめてくれよ”って言ってきたよ(笑)」
――えっ、あの王さんですか?
「王くんはね、今の新しいテレビ塔……スカイツリーの真下でね、『五十番』って支那飯屋の息子です。彼のお父さんは中国からやってきた人で、うちの病院の患者だったこともあるんですけどね」
中国からやってきて日本へ根付いた王家のように、康家もまた中国から移り住んできた家系だった。康氏の父親は慶応医学部を卒業し、神保町で開業医となった。家族ぐるみの付き合いだったという康氏と王貞治氏の関係だったが、物件のオーナーがあの世界の王氏だったのは「単なる偶然」だという。
――当時「家畜人ヤプークラブ」はどのくらい流行ったんですか?
「そりゃね、野坂(昭如)は毎日来るわ、吉行(淳之介)、遠藤(周作)も来ましたね。あとは石坂浩二くんとかね。噂を聞きつけて、それぞれが女性を連れてやってくるわけですよ。彼らはブレイクしたばかりで、毎晩銀座のクラブで遊んで最後に女の子と一緒にドンチャン騒ぎするわけ」
――嘘みたいな面子ですね……当時の著名人がそこで何をしていたんですか?
「もう、それは……SMショーだよ」
――ステージに上がってですか?
「いやあ、客席もステージもない、辺り一帯で繰り広げられていたよ。誰が誰だか区別が付かないような状態。なにしろ、本当のSと本当のMが来ちゃってるからね……それに遠藤は本当のMですから」
現在のように専門的な風俗店と化した「SMクラブ」とは違い、康氏が言っている「SMクラブ」は、どちらかといえば現在の「SMバー」と呼ばれる形態のものに近かったようだ。客と店員が即興で変態プレイに興じる、まさに酒池肉林の宴だったのだろう。とにかく、世界の王の与り知らぬところで、日本のSMシーンはド派手に幕を開けていたようだ。
「まあ、あんまり騒がしいんで警察から苦情が出てね、1年半くらいで閉めましたね」
この闇雲に著名人の名前を散りばめたようなスキャンダラスなエピソードの顛末でもわかる通り、康芳夫虚々実々と思わせる手法で昭和の日本を手玉に取った人物である。
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