■「何か面白いことをやらない?」って言われて(石川)
―― そもそも『CAMP』の企画は、どのような経緯で起ち上がったんですか?
石川:写真集の発行元であるSLANTの日村征二さんが、僕の大阪での写真展を観に来てくれたさいに、「何か面白いことやらない?」って提案してくれたんです。それで、「やります」って。その時点で具体的な内容は何も決まっていなくて、後日聞いたのが、サバイバル登山家の服部文祥さんと山に入って撮る、という『CAMP』の企画でした。
――服部さんにはどういう形で打診があったんでしょうか?
服部:写真家の石川直樹くんから「ちょっと頼みたいことがある」ってメールが来たんですよ。そのあとに日村さんから連絡が来たんです。石川くんのことを「ボクシングの国体3位で根性ありますから、サバイバル登山に連れて行ってください」って。それで、「いいですよ、一緒に行きましょう」っていう話になったんです。
――初めて会ったときのお互いの印象は?
服部:会う前に石川くんの写真は見ていて、もっとポップな人、雰囲気的にラップ系ミュージシャンみたいな人が来るのかと思っていたんですよね。ピアスとかしてる、ラップ系とボクシング系が混ざったような人が来るんだろうなって。でも、違いました。
石川:サバイバル登山家っていうのを聞いて緊張してたんです。お会いする前に著書を読んで、サバイバル登山の印象から服部さんのことも想像してたから、もっと激しい人かと思っていました。会ったときは意外と力の抜けたその奥に何か厳しさのある人だなって。あと、やっぱり目がちょっとイってるなって思いました。
服部:普通でしょう(笑)。
石川:いや、危険な状況をたくさんくぐってきて、何かを達観をしている人だなっていう意味です。
服部:達観はしてないよ。明日死んでもしょうがないとは思ってるけど。でも、それは相対的なもので、都会で普通に暮らしている人たちがノホホンとしているだけであって、昔なら普通に生きてるだけでみんなそうだったんじゃないかな。
―― サバイバル登山家ゆえに、背負っている緊張感の質が都会のビジネスマンとは違うのかもしれませんね。
服部:いや、プロフェッショナルでビジネスマンをやっていて、ミスしたら自分の地位が危うくなるような人たちは緊張しているとは思うし、大変だと思いますよ。
―― 仕事に失敗しても死ぬことはないですよ。殺すこともないですし。
服部:僕も最近はちょっと軟弱な登山者になりましたよ。
―― どこが軟弱なんですか(笑)。
服部:直接死にそうなことがだいぶ減ったから。でもまあ、そう言い始めてから『情熱大陸』で死にそうになったんですけどね。あのときは若い頃から比べてダイレクトなリスクは下げていたつもりだったんです。直前に平出くんっていうカメラマン、彼はアルパインクライマーなんだけれど、彼と焚き火の横で話したんですよ。俺はもう怖い登山からは逃げた男だから、みたいなことを。平出くんは「いや、それは服部さんの感じかたが違うんじゃないですかね」みたいなことを言っていました。僕がリスクを下げているようには見えなかったみたいですね。
―― 感じかたの違いとは?
服部:ひとつの小さなミスが即、死に繋がる世界からは少し遠のいたんで、自分ではリスクを下げたと思っているんですけど、谷を歩いていてもそういう危ない瞬間はあるから、そういうことを言っているのかもしれないですね。