■安全も安定も一瞬だけなのは街も自然も変わらない(石川)︎
――沖縄の街と人を撮影してきた石川さんにとって、人気のない原生林を撮るのは初めての経験だと思うのですが、山の印象を聞かせてください。
石川:正直、戸惑いました。人も街灯もハンバーガー屋も、普段見ているものが何もない。目の前の光景をどう見ればいいのか、何を撮ればいいのかわからない。とにかくシャッターを押すしかありませんでした。
―― 最初に何を撮ったか覚えていますか?
石川:道か木か……服部さんが歩いていく後ろ姿かもしれないです。
―― 写真を撮っている実感はありましたか?
石川:全くなかったですね。撮っている理由もわからなくなりました。キツいから歩きたくないし、山肌から手を離したら滑落するかもしれないから怖かったですよ。でも、この怖い感じを撮らないと、と思ってシャッターを押すような感じでした。
―― 一番印象に残っている撮影時の状況は?
石川:犀川で溶けかけの雪渓の上を渡らなければならない場所があったんです。「小さな雪渓だから渡る時は一人ずつ歩かないと崩れて二人とも終わる」って服部さんに言われて、先に渡った服部さんを追いかけて歩き出したら足元にヒビが入って崩れ始めたんですよ。落ちたら死ぬから必死で走ったんですけど、この怖い気持ちを形にしないと、と思って、シャッターを押してモニターで確認したらカメラの故障でバグってたんですよね。その画像がその時の自分の精神状態とシンクロしてるみたいで面白かったです。あのときは本当に死ぬかと思いました。
―― 辛かったことは?
石川:怖いとは思ったけど、基本的な部分では辛いと思わなかったんです。そういう心の動きが感じられるのは楽しかったですよ。すごくよかった。だから、服部さんがやろうとしていることに強く共感できました。「個としての自分で山に向き合う」って服部さんは言っていたと思うんですけど、自分を最大限使って山を感じる、みたいな。そういう状況のほうが山を感じられるということが深く理解できました。