ドイツ政府が隠蔽! ナチス残党が設立したチリの超・過激「奴隷制コミューン」の実態とは? ガレンベルガー監督インタビュー

ドイツ政府が隠蔽! ナチス残党が設立したチリの超・過激「奴隷制コミューン」の実態とは? ガレンベルガー監督インタビューの画像1画像は、©2015 MAJESTIC FILMPRODUKTION GMBH/IRIS PRODUCTIONS S.A./RAT PACK FILMPRODUKTION GMBH/REZO PRODUCTIONS S.A.R.L./FRED FILMS COLONIA LTD.

 1973年、チリ。9月に陸軍の軍人アウグスト・ピノチェトを中心としたクーデターが起こり、一晩で2000人を超える市民が虐殺された。独裁政権を樹立した裏には、冷戦下で社会主義勢力を世界から一掃せんとしたアメリカ政府の支援があったとされている。

 混乱するチリ国土には、もうひとつ不穏な動きがあった。それが“コロニア・ディグニダ”、「尊厳のコロニー」と呼ばれるドイツ系移民コミュニティだ。コミュニティといえば聞こえはいいが、その実態はカルトであり、設立者は元ナチス軍曹のパウル・シーファーという男だった。もともと南米はドイツ系移民が多く、第二次世界大戦後はナチスの残党が多く逃げ延びてきたというのは知られているところである。代表的なところでは、アドルフ・アイヒマンがアルゼンチンに潜伏している間に逮捕されていたり、モバイル・ガス室を開発したSS大佐ヴァルター・ラウフは捕虜収容所から脱出したのち、死ぬまでチリで生活を送っていた。


■禁欲薬と拷問…40年間で脱出成功者は5人

 コロニア・ディグニダは閉鎖された広大な敷地を持ち、住民はその中で農業を主たる労働としながら暮らしていた。男女は完全に隔離されており、それぞれに性欲を抑制する薬が投与される。電話やテレビといった文明の利器もなく、集団内のルールを破った者には容赦のない暴力が加えられた。1961年の設立から40年間で脱出できた人は、わずか5人しかいないとされている。また、ピノチェト政権下では秘密警察の拷問基地としての機能も持ち、そこではナチスの手法を用いた拷問が繰り広げられていた。ナチス出身者としては、指導者のパウル・シーファーのほか、アウシュビッツ強制収容所における人体実験の首謀者であった“死の天使”ヨーゼフ・メンゲレもこのコロニーに滞在していたとされている。

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 この恐るべき実在のカルトコミュニティを舞台にした映画が、日本でも公開される。監督はドイツ人のフローリアン・ガレンベルガー。映画好きならば、この名前を聞いてピンとくるものがあるかもしれない。2009年にさまざまな意味で話題と議論を呼んだ映画『ジョン・ラーベ 〜南京のシンドラー〜』の監督である。またしても問題作とされそうな映画を撮った同監督に、本作の狙いとその成果を尋ねた。


■フローリアン・ガレンベルガー監督インタビュー

ドイツ政府が隠蔽! ナチス残党が設立したチリの超・過激「奴隷制コミューン」の実態とは? ガレンベルガー監督インタビューの画像5画像は、フローリアン・ガレンベルガー「Wikipedia」より

 
―― 監督はドイツで生まれ育っていますが、コロニア・ディグニダの事件は国内ではよく知られたことだったのでしょうか?

ガレンベルガー ドイツ政府はずっとこの事件を隠そうとしていたんですが、チリで行方不明になった人の家族や、実際に住んでいて脱出した被害者がメディアで取材を受けたりしていて、それなりに知られていました。自分は小学生だった9歳の頃、左翼系の先生が学校にいて、授業の中でコロニア・ディグニダを扱ったテレビのニュースの映像を見せられて、強い憤りを感じたことを覚えています。


―― そこから実際に映画の題材にしようと決めたのは、何がきっかけだったのでしょう?

ガレンベルガー 今から7~8年、新聞にコロニア・ディグニダがまだチリに存在しているという記事が載っていて、驚いたんです。それで子どもの頃に感じた怒りを思い出して調査を始めたところ、コロニアだけでなく、70年代のチリではさまざまなことが起きていたことを知りました。そうした出来事をもっと知ってほしいと思い、映画を作ることに決めました。

ドイツ政府が隠蔽! ナチス残党が設立したチリの超・過激「奴隷制コミューン」の実態とは? ガレンベルガー監督インタビューの画像6©2015 MAJESTIC FILMPRODUKTION GMBH/IRIS PRODUCTIONS S.A./RAT PACK FILMPRODUKTION GMBH/REZO PRODUCTIONS S.A.R.L./FRED FILMS COLONIA LTD.


―― 取材はどの程度されましたか? 実際にコロニアの中にも入ったのでしょうか。

ガレンベルガー 6年前に初めてチリに行った時、当時はまだ若いメンバーがコロニアで暮らしていました。その方々と3~4年かけて信頼を得て徐々に親しくなり、そこでの暮らしにどういう思いを持っているか、どういう体験をしてきたかを聞かせてもらえるようになった。撮影が始まってからは、実際のサバイバーの方が監修として入ってくれて、衣装や小道具も当時コロニアで使用されていたものを使うことができました。実際に使われていたものを着たりすることで、演技もそれに影響されます。だからなるべく実際のものを使うようにしました。


―― 取材は大変ではなかったですか? カルトの集団で生活していた人たちは、そのつらい体験を容易には語らないと思うのですが……。

ガレンベルガー 最初はカメラも録音機器も持たずに行き、ずっとその状態でコミュニケーションを続けていたことが良かったんだと思います。いかにも取材、という感じで行っていたら、「何も問題なかった」と言われていたと思う。長い時間をかけて信頼を得ていくと、相手の方もずっと嘘をついているのは心が重くなってくる。どこか「打ち明けたい」という気持ちになってきて、心を開いてもらえたんだと思っています。

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