着陸しない飛行機が氷上の人間を吊り上げた!? CIA極秘作戦「スカイフック」—— 映画『ダークナイト』のあの装置は実在した

2008年の映画『ダークナイト』に、ブルース・ウェインが技術者ルーシャス・フォックスへ、着陸させずに飛行機へ乗り込む手段はないかと持ちかける場面がある。そこでフォックスが引き合いに出すのが、60年代にCIAが危険地帯から人員を回収するために進めていた「スカイフック」という計画だ。
映画の中での話に聞こえる。だがこれは実在した技術であり、CIAがこれで成し遂げたことは、バットマンの離れ業を上回っていた。
北極に取り残されたソ連の「幽霊基地」
1961年5月、北極圏で航空磁気測量を行っていた米海軍機が、氷上に奇妙なものを見つけた。ソ連の漂流観測基地が、まるごと無人で放置されていたのだ。
米国も潜水艦の動向を探るため同種の氷上基地を運用しており、ソ連側の装備や残された研究データは第一級の諜報資源になる。数日後、ソ連自身が「NP9基地」の放棄を認めた。補給機が使っていた氷の滑走路が氷丘脈で破壊され、離着陸が不可能になったためだった。
誰も近づけない以上、機密は北極の氷が飲み込む——ソ連はそう踏んでいた。CIAの記録でも、NP9は砕氷船が届かないほど氷塊の奥にあり、ヘリコプターの航続距離からも外れていたと整理されている。
着陸せずに人を降ろし、着陸せずに連れ帰る以外に手はない。不可能な話だった——ロバート・フルトンという男がいなければ。
豚を無傷で空へ——奇人発明家が作った「空中回収装置」
ロバート・エディソン・フルトン・ジュニアは1909年ニューヨーク生まれ。トラック製造大手の社長を父に持ち、ミドルネームは祖父の友人だった発明王エジソンにちなむ。ウィーンで建築を学び、17カ月かけてバイクで32カ国を走破した経歴の持ち主だ。
戦後、彼はロンドンで航空郵便の空中回収システムの実演を見る。支柱とワイヤーを使い、時速約90マイル(約145km)で滑空する機体が、着陸せずに郵便袋をさらっていく仕組みだった。フルトンは、同じ原理を「物」ではなく「人」に使えると考えた。
そして1958年に発表されたのが「スカイフック」である。回収される人物はハーネスを着け、約500フィート(約152m)のナイロンロープにつながる。携行ボンベのヘリウムで気球を膨らませてロープを空へ立ち上げ、機首の角のような鋼鉄製アームで引っ掛けて機内へ巻き上げる仕掛けだ。
試験はダミー人形、次いで豚で行われた。豚は無傷ながらひどく混乱した状態で機内に到着したと記録されている。同年夏の有人試験では、衝撃はパラシュート開傘時より小さく、尻を蹴られた程度と評された。

1962年6月2日、氷上から2人が消えた
この難題に直面したジョン・キャドワラダー大佐は、スカイフック以外に解はないと判断する。CIA、国防情報局、海軍研究局による共同作戦「プロジェクト・コールドフィート」だ。
だが実戦投入例ゼロの装置に海軍上層部は慎重だった。要員の一人、南極観測の経験を持つ地球物理学者レナード・A・レシャック中尉は降下資格すら持たず、訓練を突貫で受ける有様。承認が下りた頃にはNP9は流れ去っていた。

転機は1962年3月。ソ連がより新しい「NP8基地」も放棄したのだ。しかもNP8は、カナダ空軍レゾリュート・ベイ基地から約600マイル(約965km)と手が届く位置にあった。
5月28日、CIAが秘密裏に保有していた航空会社からB-17爆撃機が飛び立ち、レシャック中尉とロシア語に堪能な空軍のジェームズ・スミス少佐が氷上へ降下する。捜索に与えられた時間は72時間だった。
回収は悪天候で延期され、決行された6月2日も空は氷を灰色に染めて視界を奪い、風は30ノット(時速約56km)で吹いていた。2人が集めた露光済みフィルムや文書、機材サンプルは約150ポンド(約68kg)。彼らは袋が吹き飛ばされないよう抱え込んだまま、空へ吊り上げられていった。
持ち帰られた資料からは、北極海の対潜水艦戦技術においてソ連が米国の先を行っていた実態が浮かび上がった。
スカイフックは1965年の映画『007 サンダーボール作戦』にも登場したが、有人回収は1982年の演習中の死亡事故を最後に終了し、90年代半ばには役目を終えた。フルトンは2004年に95歳で世を去り、その4年後に自らの装置が『ダークナイト』で蘇るのを見ることはなかった。
ソ連は、機密は氷が飲み込むと考えていた。だが実際にはそれは1枚の袋に詰められ、風の中を舞い上がっていった。到達不可能な場所などない——冷戦の情報戦はそう証明したことになる。現在の北極で、同じ発想はどんな形に姿を変えているのだろうか。
参考:Popular Mechanics、ほか
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2024.10.02 20:00心霊着陸しない飛行機が氷上の人間を吊り上げた!? CIA極秘作戦「スカイフック」—— 映画『ダークナイト』のあの装置は実在したのページです。CIA、冷戦、バットマン、極秘作戦などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで

