実は不要ではなかった「盲腸」! 進化の過程で淘汰されていないのは、実は善玉菌の貯蔵庫だから?
いわゆる“盲腸”である虫垂は必要のない臓器といわれ、長い間ないがしろにされてきた。「他の手術のついでに盲腸も切ってもらう」や、「医学が発達していない国に住む場合、盲腸は取っておいた方が安心だ」などという話を耳にした方もいるだろう。しかし、それは大いなる誤解であったのだ。実は虫垂は非常に重要な役割がある臓器だということが最近の研究で明らかにされた。
■人体の虫垂は進化適応を続けてきた
虫垂とは大腸の一部であり、右下腹部にある盲腸の端から細長く飛び出している突起状の部分を指す。よく「盲腸になった」というが、それは虫垂部分が炎症を起こしているので、正しくは「虫垂炎」と呼ぶべきらしい。

虫垂を持つのは人間だけではない。ウサギやチンパンジー、ゴリラなど500種以上の哺乳類も虫垂を持っている。しかし今までなぜ、虫垂が存在するかは知られていなかった。
米国アリゾナ州にあるミッドウェスタン大学アリゾナカレッジ、オステオパシー医学教授のヘザー・スミス博士は、その虫垂の謎を調べるために533種の哺乳類の虫垂の進化状況を調査した。この研究は国際チームと共同で行われ、スミス博士は各哺乳類の虫垂の変化を図にした。
その結果驚くことに、調査した500種以上の哺乳類全ての虫垂で“進化による変化”はほとんど見られず、人間も同様であった。これはつまり、“使われる器官は発達し、使われない器官は消失していく”とするダーウィンの進化論から言えば、今もずっと人間の身体に存在し続ける虫垂は使われる器官であり、何らかの存在意義があることを意味しているのではないだろうか?
■虫垂はむやみに取るべきでない
スミス博士は、以前信じられていた「虫垂は消化器官」という考え方を退けた。その代わりこの研究によって、虫垂には免疫システムの重要な鍵であるリンパ組織が数多く存在していることがわかった。そして実験でマウスの虫垂を切除すると、体内の有用な腸内細菌の数が半減することも発見されたのだ。
博士たちは虫垂のリンパ組織は有用な腸内細菌の育成を促進し、そしてそれらの菌を安全に貯蔵しておく場所としての役割があると結論づけた。

例として抗生物質には悪玉細菌をやっつける働きがあるが、同時に善玉細菌も消失させてしまう。ところがそのような場合でも善玉細菌は虫垂に隠れ、そこで生き延び再び腸内で繁殖することができるという。腸内細菌が人間の健康にどれだけ影響を及ぼすかについては未知の部分もまだ多いので、この発見は非常に重要な意味を持つ。
やはり人間の身体に不要な器官はないのだ。以前とは一変し、虫垂はむやみに取るべきでないという考え方が現在では一般的らしい。人体の謎はまだまだ深い。
(文=三橋ココ)
参考:「Daily Mail」ほか
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