スターリンの忠実なる“死刑執行人” ロシアの怪奇人物・ラヴレンチー・ベリヤの冷酷な生涯とは?
【超常現象と神秘の国ロシアシリーズ ―ロシアの怪奇人物1 ラヴレンチー・ベリヤ前編】
ロシアの歴史は常に国家権力による専制や、周辺諸国からの侵略との闘争に深く彩られてきた。特に20世紀初頭まで続いた帝政時代の農民支配、そして革命ののちに誕生したソビエト体制下における全体主義の時代と、国民を国家権力によって上から抑圧することで多くの人命や人間の基本的人権が不当に蹂躙されて来た歴史をロシアは有している。
そして例えばナチス支配時代のドイツにおいてヒトラーの側近としてナチスの宣伝・プロパガンダ戦略を一手に引き受けたヨゼフ・ゲッペルス、ユダヤ人抹殺の最高責任者としてゲシュタポを指揮したアドルフ・アイヒマン、ナチス親衛隊の長官として冷酷無比な性格で知られるハインリッヒ・ヒムラーのように、強固な独裁体制には、必ずその周辺に「独裁者の懐刀」と言うべき、強権を行使することで国民を畏怖させる「悪魔的人物」が存在していたというのが、歴史の常である。
日本では話題にされることこそ少ないが、ロシアの歴史にももちろん、そうした権力者の「懐刀」として暗躍し、その悪名を歴史に残した謎多き“怪奇人物”は存在する。その代表格とも言えるのがスターリン時代、“ソビエト版ゲシュタポ”とも言うべき秘密警察「内務人民委員部(=NKVD)」の長官として悪名を馳せた、ラヴレンチ―・ベリヤである。
筆者は足掛け2年間モスクワに滞在していたが、その間スターリン時代を知る年輩のロシア人とも多く接点を持った。彼らは例外なくこの「ベリヤ」という名前を聞くと表情を強張らせた。「その名前を聞いただけで体に戦慄が走る」と言ったロシア人もいた。かつてのスターリン時代を知るロシア人にとって、秘密警察の長官としてスターリンによる粛清と民衆弾圧の指揮を執ったベリヤという存在は、まさに圧政と恐怖政治の象徴として、その脳裏に今でも深く刻み込まれているのである。ではベリヤとはどんな人物だったのか。今回と次回、2回にわたる連載で彼の人のなり、その歩んだ軌跡と人物像に肉薄してみたい。
■生来の狡猾な策士にして冷酷な野心家
ラヴレンチー・パーヴロヴィッチ・ベリヤ(ロシア語表記:Лаврентии Павлович Берия)は1899年3月29日、グルジア共和国内のアブハジア自治共和国の首都スフミ近郊の町で生まれた。スターリンと同じ生粋のグルジア人であるが、より正確にはグルジアの少数民族であるミングレル人である。小作農民であった父・パーヴェル・カフカエヴィッチ・ベリヤ、母・マルタ・イワーノブナともに熱心なグルジア正教会の教徒であった。ベリヤには耳の不自由な妹がいたとされているが、ベリヤの幼少時代についての記述は少なく、その詳細を知ることはできない。だが後に秘密警察の長官として民衆弾圧の指揮を執る冷酷無比な性格はすでに幼少の頃から芽生えていたと見られ、彼の幼少時代を知る数少ない人物の証言によると、スフミ市内の中等学校に在学していた10代の頃から、学校で起きた「盗み」や「密告」の中でおよそベリヤが関与していなかったものはなかったとされる。生徒の成績簿が入った鞄を盗んで担任教師に売りつけようとしたことすらあったという。
中等学校を卒業後、ベリヤはアゼルバイジャンの首都バクーにある工業学校に進学し、1919年に20歳でソ連共産党の前身であるロシア社会民主労働党の左派、すなわちボリシェヴィキに入党する。しかし狡猾な彼はボリシェヴィキ党員でありながら時として反ボリシェヴィキのために活動することもあり、そのために一度は逮捕されるが、党内で権力を掌握しつつあったセルゲイ・キーロフの力で、ベリヤは処刑を免れている。
やがて彼はボリシェヴィキの中でレーニンが創設した秘密警察である「反革命怠業取締非常委員会」いわゆる「チェーカー」の一員として、議長であるジャファル・バギロフの指導の下、反革命分子の逮捕・抹殺に辣腕をふるい、1921年には22歳の若さでチェーカーの副議長の地位についた。
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